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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > ナレッジマネジメント(6)-「暗黙知」と「知識創造」 (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

ナレッジマネジメント(6)-「暗黙知」と「知識創造」

永田晃也 技術経営、科学技術政策

12/09/12

前回は、知識の重要性に関する議論を組織論の中に位置づけて理解するため、組織論の学説史を簡単に振り返り、組織の編成原理を環境との相対関係の中に見出したコンティンジェンシー理論の意義に言及しました。 コンティンジェンシー理論は、組織論を科学的な研究の次元に高める上で重要な貢献を果たしたのですが、そこにはなお残された課題がありました。その課題の克服こそ、ナレッジマネジメントのバックボーンとなった理論の学説史的な意義に他ならないのです。

【組織的知識創造の理論】
コンティンジェンシー理論において残された課題とは、それが環境に対する組織の受動的(passive)な側面のみを説明しているという点にあります。
この理論に基づく組織の編成原理は、極めて環境決定論的な性格を持たざるを得ません。
しかし、現実の組織が何らかの意思決定を行う際には、単に環境からインプットされた情報を処理しているのではなく、自らがその担い手となる新たな知識を、主体的に創造しているという側面があります。
そのような側面があるからこそ、同じ環境に置かれた同じような規模の組織でも、そのパフォーマンスは大きく異なることがあるわけです。

従って、有効な組織を編成しようとする際には、単に情報処理の効率を考慮するのではなく、知識創造という主体的な活動にとっての適合性を考慮しなければなりません。
この課題に応えるためには、知識創造のプロセス自体を理解する必要があります。
そのための拠り所になる理論が、一橋大学名誉教授である野中郁次郎先生によって提唱された「組織的知識創造の理論」です。
この理論は、世界的に影響力を持つことになりましたが、きっかけとなった文献は、1995年に竹内弘高教授との共著により公刊されたKnowledge-Creating Company(邦訳『知識創造企業』)です。
しかし、理論の骨格は1991年にHarvard Business Review誌に掲載された同じタイトルの単著論文と、1990年に公刊された『知識創造の経営』という単著の中で既に発表されていたものです。

【暗黙知と形式知】
野中理論は、知識に関する本質論的な考察を踏まえて、新たな知識が組織的に創造されるプロセスを、「暗黙知」と「形式知」の相互作用による知識変換のプロセスとして記述しています。
ここで、まず「暗黙知」と「形式知」というキーワードの意味を解説しておく必要があるでしょう。
野中理論において「暗黙知」(tacit knowledge)とは、「五感を通じて経験的に獲得され、言語化することが困難で主観的な知識」と定義されています。
具体例として、様々なスキル、ノウハウなどが挙げられます。
例えば、私たちは多くの知人の顔を知っているわけですが、それらの顔をどのように識別しているのかを完全に言語によって説明することができません。
これは一種の認知的なスキルです。また、私たちは自転車の乗り方を知っているとしても、その方法を、まだ自転車に乗れない小さな子供に言語だけで教えてあげることはできません。これは一種の身体的スキルです。
このような言語化することが困難な知識が、野中理論では「暗黙知」と呼ばれています。
一方、私たちは通常、「知識」というと、科学の公式、特許の明細、製品の仕様などに表現された知識を想起することが多いでしょうが、それらは「形式知」(explicit knowledge)、すなわち言語化された客観的な知識の具体例とされます。
ここで形式知の具体例として挙げた科学の公式などは、情報という形態でも存在するのですが、前にお話したように、知識と情報の決定的な違いは、それを使用する主体が存在するか否かにあります。例えば、物理の教科書に書かれた公式は、それを誰かが使用するとき、その人にとっての形式知と認められますが、ただ書かれてある内容は情報に過ぎません。

【ポランニーによる「暗黙知」の概念】
ところで、この「暗黙知」の概念は、マイケル・ポランニーという化学者が展開した認識論に由来しています。
ポランニーは、科学的な発明を遂行する認知プロセスに関心を寄せ、それを「暗黙に知る」(tacit knowing)認知プロセスとして検討しています。
ポランニーは、認知プロセスの暗黙の次元について論じた文献の中で、「我々は語れる以上のことを知っている」ということも述べていますが、もともとの彼の関心は、探求者が誰にも「語られることなく」知識の創発に至るプロセスにあったわけです。
また、ポランニーが言う暗黙知とは、言語化できない認知の次元を意味しているのですが、野中理論における暗黙知は、形式知との相互変換が可能な知識のタイプとして捉えられています。
こうしたポランニーの概念との違いを指摘して、野中理論を批判する向きもあるのですが、そのような批判は全く無意味であると私は思います。
そのような概念の相違については、野中先生自身がある文献の中で言及しています。
また、形式知という概念はポランニーに由来するのではなく、独自に導入された概念であることも、とうの昔に言明されています。
野中理論においては、ポランニーとは異なった概念で「暗黙知」が再定義されたというだけのことです。
この放送の中で、私が「暗黙知」という語を使用するときも、それはポランニーの概念ではなく、野中理論の概念で使用しているものと理解してください。

次回は、組織的知識創造理論の内容に入り、暗黙知と形式知の変換プロセスについて具体的に説明します。

 

分野: ナレッジマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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