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QT PROモーニングビジネススクール > ブログ&ポッドキャスト一覧 > ナレッジマネジメント(5)-情報処理パラダイム (技術経営、科学技術政策/永田晃也)

ナレッジマネジメント(5)-情報処理パラダイム

永田晃也 技術経営、科学技術政策

12/09/11

前回は、競争戦略論の理論的な展開の中で、持続的な競争優位の源泉として知識の重要性が注目されるに至った経緯をお話しました。
いわゆる「資源ベース・アプローチ」に立脚した競争戦略論の論者たちは、模倣困難な経営資源の本質が知識であることを見出し、また環境が変化しても、なお競争優位を持続させられる組織能力を提供する源泉も知識であることを見出してきました。
このような知識の重要性が注目される至った経緯を、今度は組織論の伝統の中で捉え直してみます。

【システムとしての組織】
といっても、ここで組織論の学説史を延々とお話するつもりはありません。
私たちの議論にとって重要な最初のポイントは、組織論が社会科学の一領域として確立される上では、組織を単なる個人の集まりと捉えるのではなく、一種のシステムとして捉える視点を獲得することが決定的に重要な意味を持ったということです。
そのような視点を、初めて定義的に組織論に導入したのは、チェスター・バーナードという人であったと目されます。
バーナードは、1938年に公刊された『経営者の役割』という著書の中で、組織を「協働のシステム」(cooperative system)と定義し、このシステムを構成する要素を、協働の意欲、協働の目的、そしてコミュニケーションであるとしました。
今日的な地平からみれば、このような組織の定義は、ごく当たり前のことを言っているように見えるでしょうが、個人の集まりが全体としてまとまりのある作動を構成していくメカニズムを記述したという点で画期的な意味を持つものでした。

【情報処理パラダイム】
このようなシステム論的な組織観は、その後、ハーバート・サイモンによって発展させられました。
サイモンは、1978年にノーベル経済学賞を受賞しているのですが、それは経営行動に関する彼の研究が、伝統的な経済学の前提を根底的に批判する側面を持っていたからです。
新古典派の経済学では、市場をモデル化する際、「完全競争」という前提がおかれます。
そこでは、財・サービスを取引する需要主体と供給主体がともに多数存在し、市場に参入することも退出することも自由であり、価格のような情報は瞬時に取引主体の間に伝達され、取引主体は、そのような完全情報に基づいて自己の利得を極大化するための合理的な意思決定を行う経済人として描かれます。
伝統的な経済学は、このような前提による現実の抽象化を行うことによって、理論を洗練することに成功したわけですが、サイモンは、このような前提が現実に妥当しないことを問題視しました。
現実の人間は、市場で取引を行う際、情報を完全に掌握し、その上で最適な意思決定を行っているわけではありません。
それができないのは、個人としての人間の認知能力なり情報処理能力に限界があるからです。
そのため、個人としての人間の意思決定は、その合理性が限定されたものにならざるを得ません。
サイモンは、このような状況を「限定合理性」(bounded rationality)と呼びました。
その上で、組織は、この限定合理性を克服するためのシステムとして捉え直されることになります。
このように理解された組織とは、多数の個人が階層を成して伝達と意思決定を行う一種の「情報処理システム」に他なりません。
このような情報処理システムとして組織を捉える見方は、その後、さらに「コンティンジェンシー理論」と呼ばれる理論に継承されていきました。
コンティンジェンシー理論とは、有効な組織のあり方が、環境次第で条件的に(つまりcontingentに)決定されるという組織論であり、「組織の条件適応理論」などと訳されています。この理論において組織は、環境に開かれたオープンシステムとして捉えられることになります。
この観点に立って様々な事例分析を踏まえた実証研究が行われました。
例えば、トム・バーンズとG.M.ストーカーという二人の研究者は、英国のエレクトロニクス企業15社の事例研究を行った結果、安定的な環境にもとでは高度に専門分化が進み、集権的な構造を持った「機械的組織」が有効である一方、予測困難な問題が絶えず起こる環境には、役割分担関係が柔軟で、
コミュニケーションのネットワークが構造的に発達した「有機的組織」が適しているという事実を発見しました。
彼らの研究は、1961年に公刊された「イノベーションのマネジメント」という著書にまとめられています。

【残された問題】
コンティンジェンシー理論が組織論の展開に果たした役割は極めて重要です。
そのオープンシステムとして組織を捉える観点は、要するに組織のあり方は恣意的に決定できるものではなく、環境との相対関係の中で決定されるという編成原理が存在するのだということを明確に提示するものでした。
この命題によって、組織論は初めて科学的な明証性の次元を獲得したといっても過言ではありません。
しかし、なお残された課題があります。次回は、まずその課題について説明し、それを克服する理論を取り上げたいと思います。

 

分野: ナレッジマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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