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QT PROモーニングビジネススクール > 過去の記事一覧 > 科学技術と社会のインターフェースを構築する (科学技術イノベーション戦略/永田)

科学技術と社会のインターフェースを構築する (科学技術イノベーション戦略/永田)

12/03/13

 今回は、科学技術と社会の関係をどのように構築するかというトピックについてお話しますが、その前に、「第4期科学技術基本計画」に触れておきたいと思います。

<「科学技術基本計画」というと、国の科学技術政策について5カ年間の基本的な方針をまとめたものでしたね。第4期の策定は遅れていたそうですが。>

 第4期計画は平成23年3月に閣議決定される予定だったのですが、東日本大震災の影響を受けて大幅な見直しが行われることになり、平成23年8月19日に閣議決定されました。こうした背景から、まず第4期計画は、東日本大震災がもたらした直接、間接の被害を未曾有の危機として捉え、この震災からの復興を世界的課題として位置づける基本認識を示しています。

<今回の基本計画にみられる政策の具体的な特徴は、どこにあるのでしょうか。>

 第2期計画以来、基本計画は重点推進分野を軸に構想されてきました。ところが今回は、イノベーションを推進すべき具体的な課題領域を示した点に大きな特徴がみられます。課題領域の一つは「グリーンイノベーション」で、「安定的なエネルギー供給と低炭素化の実現」、「エネルギー利用の高効率化・スマート化」などが目標に掲げられています。
 もう一つは「ライフイノベーション」です。その目標には、病気の予防法、早期診断法および治療法における革新や、「高齢者、障害者、患者の生活の質の向上」が挙げられています。

<社会的な課題の側から目標を設定しているわけですね。>

 このような政策目標の変化を、今回の政策立案に関与した専門家は、「サプライサイド」から「デマンドサイド」への発想の転換として説明しています。重点推進分野を前提に考えると、どうしても科学技術の側から課題を設定するという「サプライサイド」の議論になり勝ちです。そうではなく、まず解決すべき社会的な課題を設定するための政策論議を踏まえるという「デマンドサイド」の視点に切り換えたというわけです。

<それは、国民の側からみると重要な意味を持つ政策転換だったと思われますが、それを実行する上での課題もあるのではないでしょうか。>

 まさに、その課題が今日お話してみたいトピックです。
 実際、グリーンイノベーションやライフイノベーションという課題カテゴリーの設定は、国民生活の需要に即したものになっていると思います。しかし、具体的な政策課題に落とし込む際に、ただ科学技術の専門家たちが、どのような研究開発テーマに取り組むべきかを設定することになると、結局、サプライサイドの政策に戻ってしまいかねません。デマンドサイドの視点に立った科学技術イノベーション政策を実現していくためには、非専門家、つまりは一般の市民、公衆と呼ばれる人々の視点を、具体的な技術課題に関する政策的な意思決定に反映させることが課題になります。

<しかし、一般市民が専門的な技術課題に関与することは難しいのではないでしょうか。>

 その通りです。科学技術の知識が専門的になるほど、その詳細を一般市民が理解することは困難になり、いわば専門家による知識の独占状態が発生します。それが、科学技術に関する民主主義的な意思決定を阻害する要因として注視されてきました。そのため、この阻害要因を除くための様々な試みもなされてきたのです。

<具体的には、どのような方法が試みられてきたのでしょうか。>

 例えば、科学技術に関する政策論議に一般市民の参加を得るための代表的な方法として、「コンセンサス会議」と呼ばれる取組があります。その標準的な進め方は、1980年代の半ばにデンマークで構築された方法に範をとっていますが、まず論争状態にある科学技術上のトピックが取り上げられ、これを議論するためのパネルが構成されます。パネルは、公募によって一般市民から選ばれた10数名の人々からなり、「市民パネル」と呼ばれています。一方、専門的な知見を提供する「専門家パネル」も構成されます。市民パネルは、テーマに関する質問事項を決定し、それに関する回答を、公開の場で専門家パネルから受けます。その後、市民パネルは、設定されたテーマに関するコンセンサスの形成を試み、その結果を文書にとりまとめて公表します。

<その結果は、実際の政策に使われているのでしょうか。>

 この方法が何度か試みられてきたデンマークでは、政策決定に一定の影響力を持っていると言われています。しかし、コンセンサス会議の文書が、政策決定に直結しているわけではないので、影響力は政策決定の際に参照される範囲に止まっているようです。

<日本での取組はあるのでしょうか。>

 日本でも、何度が試行的なコンセンサス会議が開催されています。例えば、2000年には農水省が「遺伝子組換え農作物を考えるコンセンサス会議」を開催しました。

 ところで、こうした取組を実践する上で重要な役割を果たしてきたのは、科学に対する公衆理解(public understanding)や、科学者と一般市民の対話(サイエンス・コミュニケーション)などを研究対象としてきた科学技術社会論(Science, Technology and Society: STS)と呼ばれる領域の研究者です。科学技術には分野ごとの専門家がいますが、彼らは自分たちが生み出す科学技術が、どのような社会的問題をもたらすのかに関する専門家ではありません。近年、科学技術社会論の研究者たちは、それらの問題をELSI(Ethical, Legal and Social Issues)すなわち「倫理的・法的・社会的問題」と総称して論じています。
 私自身は、STSの専門家ではありませんが、科学技術と社会のインターフェースを構築し、冒頭に申し上げたデマンドサイドの科学技術イノベーション政策を実現していく上で、今後、STSの研究者たちとの対話は益々重要になってくると思っています。

分野: 永田晃也教授 |スピーカー:

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