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QT PROモーニングビジネススクール > 過去の記事一覧 > 日本の国際収支2(ファイナンシャルマネジメント/平松拓)

日本の国際収支2(ファイナンシャルマネジメント/平松拓)

11/12/28

昨日に続いて、日本の国際収支の話です。

前回は貿易サービス収支の黒字が、日本では急速に縮小していくのではないかという
お話でした。今回は、その国際収支の問題をもう少し長期的な観点からお話します。

クローサーという学者が、もう50年以上前に国際収支の発展段階説を唱えていますが、
それによると1国は経済の発展段階に沿って国際収支が次のように変化をするといって
います。まず国内産業が未発達で大幅な輸入超過となるために「経常収支」が赤字で、
それを「資本収支」で賄う、所謂「未成熟の債務国」といわれる状態です。次に、次第
に産業が発達して輸出が輸入を上回るけれども、「資本収支」で賄っていた時の借金の
利払い(即ち「所得収支」の赤字)のために「経常収支」は依然赤字に留まる「成熟
した
債務国」です。3番目の段階が、「所得収支」は引き続き赤字だけれども輸出の更なる
伸びで「経常収支」が黒字となる「債務返済国」の段階です。4番目が、「経常収支」
の黒字によって債務を返済していくことで純債務国から純債権国になるため、今度は
運用益の受払いである「所得収支」も黒字化して一層大きな「経常収支」黒字を計上
する「未成熟な債権国」の段階です。それから5番目が、対外競争力が次第に低下して
再び輸入が輸出を上回り「貿易・サービス収支」が赤字化するが、対外純資産からの
「所得収支」の黒字がまだそれを上回るために「経常収支」は黒字を維持する「成熟した
債権国」の段階です。その後に「貿易・サービス」収支の赤字が、運用益である「所得
収支」の黒字を上回って「経常収支」も赤字化する「債権取崩国」という段階を歩む
とされます。イギリスやアメリカはこの「債権取崩国」の段階も通過して、今「純債務
国」になっています。

日本は1980年代以降、「未成熟な債権国」の段階にありますが、その間、1995年の
円高局面も含めて「貿易・サービス収支」の黒字を大幅に計上していて、国際収支を
見てきた立場からいうと、この状態が相当長く続くという予感がありました。むしろ
次の「成熟した債権国」の段階、すなわち「貿易収支」が赤字化する段階への移行が
なかなか想像できなかったと言った方が良いかもしれません。しかし、前回お話した
ように、「貿易・サービス収支」の黒字が今年は一時的な要因もあったとはいえ急速に
縮小し、赤字化に向かい始めているという見方をすることも可能な状況となってきま
した。この場合、背景にあるのは一般に大きく取り沙汰されている円高ばかりでは
なくて、中国をはじめとするアジア諸国の発展が大きく効いていると考えられます。
円高ばかりと言えないのは、現在の円高水準は実質購買力平価などで考えると
1995年の円高局面ほどではないという議論があり、また、かつては実質的には今
以上の円高であったにもかかわらず代替品を生産できる国が存在しなかったことで、
日本からの輸出は減りにくく、また輸入も増えにくいということがあったからです。
ところが今は、日本企業の海外移転、それから海外日本企業からの代替品の輸入が
増加し、日本経済はまさに1980年代日米貿易摩擦が華やかなりし頃のアメリカ経済の
状態に近づきつつあると言えるでしょう。

急激な国際収支の変動は国内の雇用などの面で問題が大きいことから、適切な対応
策がとられる必要はあるでしょう。しかし日本の輸出を維持するための政策が、総花的
にとられるとすると、それはあくまでも時間を買うことでしかないことを認識する必要
があると思います。つまり貿易黒字の維持拡大は、そのこと自身、更なるその円高を
もたらす一因となるわけで、そうなると結果的には輸出にとっては逆風となります。
つまり輸出を維持するだけの目的で、総花的な政策がとられるとすれば、ある部分
自己矛盾していて、そこに投入される資源は浪費ということになってしまいます。

発展段階説は、いずれ日本が「経常収支」が赤字化して「成熟した債務国」、さらには
「債権取崩国」へと移行することを示唆しています。現在、日本にキャッチアップしよう
としている多くの国は、日本同様、輸出代替型の産業育成により成長してきた結果、
対GDP比で比較的大きな貿易黒字を計上している国が多いのです。こうした国が
成長するためには、その生産物をそれぞれ国内、あるいは海外で吸収する必要があり
ますが、いまやアメリカや欧州など、かつての先進国はそれを吸収する余力を失って
いる状態で、それぞれが国内或いはその地域内でバランスをとることが必要になって
きています。そうした中で、日本がいつまでも途上国同様に大きな貿易黒字を計上し
続けること自体許されにくいことですし、実際に難しくなってきています。どの産業
を国際的な競争力を持つ産業として残すのか、また内需型産業をいかに発展させる
ことで雇用を維持し暮らしを豊かにするのか、こうした長期的な観点からの戦略的な
取組みが重要になってきたといえるでしょう。

分野: 平松拓教授 |スピーカー:

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