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QT PROモーニングビジネススクール > 過去の記事一覧 > 第8回「科学技術政策の経済効果」(2)(科学技術・イノベーション政策/永田晃也)

第8回「科学技術政策の経済効果」(2)(科学技術・イノベーション政策/永田晃也)

11/10/04

 前回は、科学技術政策の経済効果を把握するための方法について論じるため、まず技術進歩率の計測方法について説明しました。技術進歩率は、様々な投入要素を考慮した全要素生産性(TFP)の伸び率によって計測されること、また、TFPの伸び率を計測するためには、経済成長率から要素投入の伸び率を差し引く方法が広く用いられてきたという話をしました。その上で、このような方法は、いわば投入要素の伸びでは説明できない残差として技術進歩を把握するものであるとして、その問題点を指摘しておきました。それに対処する方法を論じるところから、話を継いでみたいと思います。

 技術進歩を単に成長の残差として扱っている限り、その要因を説明することができません。それは研究開発投資や人的資本投資のような経済活動に起因するものかも知れませんし、経済的な意思決定の外部にある要因、例えば時間の推移に伴う習熟効果によるものかも知れません。前者の要因を理論的に取り込むための試みは、「内生的成長理論」として特に1980年代に活発に行われました。それは、科学技術の経済効果を把握するという課題にも重要な視点を与えるものでした。

 この課題に対する実証的なアプローチは、研究開発投資が生み出す技術知識のストックを測定し、その技術知識ストックと技術進歩率の関係を、生産関数の枠組みを用いて統計的に分析するという方法で進められました。技術進歩のうち、研究開発のような内生的要因によって説明できる部分と、習熟効果のような外生的要因を分解してみようという試みです。

 問題は、どのようにして技術知識ストックを計測するかです。

 この問題に対して、多くの経済学者は、一種のコスト・アプローチを用いてきました。要するに、研究開発投資は、その投資額相当の経済価値を持つ技術知識ストックを構成するという前提に立ち、研究開発投資額の累積を計算する訳です。

 ただ、研究開発活動が、新たな技術知識を創造するまでには時間がかかります。そこで、累積計算に当たっては、このタイムラグとか懐妊期間と呼ばれてきた研究開発の実施期間が考慮されることになります。つまり、ある年度の研究開発投資は、同期の技術知識ストックを蓄積するのではなく、研究開発期間が経過した数期後の技術知識ストックに結実するというルールで計算が行われるのです。

 また、一旦形成された技術知識ストックの価値は、永久に保たれるのではありません。新たな技術知識も広く普及すれば、その新規性が損なわれますし、より新しい技術知識に置き換えられるという事態も生じます。技術知識は、時間の経過に伴って陳腐化していく訳です。そこで、技術知識ストックの価値を計測する際には、この陳腐化率も考慮されることになります。この点は、設備資本ストックの価値を計測する際に、資本減耗が考慮されるのと同様です。

 このように説明してくると、技術知識ストックを計算するルール自体は難しいものではありませんし、簡単に計測できるように思われるかも知れません。しかし、実際には研究開発期間や、技術知識の陳腐化に関する統計データが存在しないので、独自の調査データを整備するために多大の努力を要することになります。

 こうして技術知識ストックの経済価値が計測されると、つぎに技術知識ストックと技術進歩率の間に、どのような関係が見いだされるのかが統計的に分析されます。

 このような分析枠組みは、政府の研究開発投資の経済効果を分析するために応用されたこともありますが、一般的には民間企業における研究開発投資の収益率を計測するために用いられてきたものです。一口に「技術知識」といっても、政府負担によって公的研究機関や大学が行う研究開発の成果としての技術知識は、直ちに民間企業の生産活動に使用されるような知識ではないことが多いでしょう。むしろ、政府負担によって生み出される技術知識の主な役割は、民間企業の研究開発にシーズを提供し、あるいは民間企業の研究開発活動の効率や成功確率を高めるといった間接的な効果をもたらすことにあると考えられます。このような間接的な効果を評価することには、まだ多くの方法的な課題が残されています。

 ところで、政府負担による研究開発は、公的研究機関や大学などが実施主体となるばかりではありません。以前、様々な政策手段を挙げた際に言及したように、委託研究開発や、研究開発補助金という経路を通じて、民間企業が実施主体になる場合もある訳です。そのような政策手段が、民間企業の研究開発にどのような影響を及ぼしているのかについても、多くの実証研究が行われてきました。

 委託開発や開発補助金制度の政策的な効果としては、それが民間企業の研究開発投資を誘発し、その成果が生産効率を向上させることが期待されます。しかし、委託費や補助金の増加は、必ずしも民間企業の研究開発にポジティブな効果を及ぼすとは限りません。政府支出の増加は、民間支出をクラウディング・アウトする効果を持つ場合もあることが知られているのです。政府研究開発と民間の研究開発が、その目的において補完的ではなく代替的な性格を持つ場合には、そのような効果が顕在化しやすくなると考えられます。政府負担による研究開発が、民間企業にとって十分なインセンティブがある技術課題に向けられると、それは経済効果を生み出し易いかも知れませんが、他方で民間企業による支出を削減し、全体としては却って経済成長にマイナスの影響を及ぼすということも起こり得る訳です。むしろ政府は、経済効果という点ではリスクの高い技術課題のために研究開発費を負担することが重要だと思います。

分野: 永田晃也教授 |スピーカー:

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