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QT PROモーニングビジネススクール > 過去の記事一覧 > 第7回「科学技術政策の経済効果」(1)(科学技術・イノベーション政策/永田晃也)

第7回「科学技術政策の経済効果」(1)(科学技術・イノベーション政策/永田晃也)

11/10/03

 最近2回の話の中では、近年、国内外で注目を集めている「科学技術・イノベーション政策のための科学」というトピックを取り上げてみました。このトピックに関連して、これから数回に亘って、科学技術・イノベーション政策の効果は、どのように捉えられるのかという問題を論じてみたいと思います。

 ここでは政策の効果として、主に経済的な効果を取り上げます。しかし、もとより科学技術政策は、経済的な効果だけを目的とするものではありません。科学的な知識の中には、経済的な効果に結びつかない知識もあります。例えば、宇宙とか地球、あるいは生命、社会的な存在としての人間といった対象について、我々の認識を深めるための科学的な研究の成果は、直ちに経済的な価値を生み出すものではないこともあるのです。しかし、そのような研究は、人類の持続可能な生存のあり方に関わる公共性の高い知識を創造するための活動という側面を持っていますから、それを促進することは、科学技術政策の重要な目的の一つとして位置づけられるでしょう。

 また、研究開発によって創造された知識が経済的な価値に結びつく場合であれ、結びつかない場合であれ、他方では我々の生活環境や、社会的に共有された価値観との間でコンフリクトを発生させることがあります。そのような場合、新たな科学的・技術的な知識と社会システムの間に良好なインターフェースを構築することが、科学技術政策の重要な課題となるでしょう。

 脚注が長くなりましたが、ここで私が強調しておきたい点は、経済効果という側面は、科学技術政策の重要な目的の一つではあっても、あくまでも、その一つに過ぎないということです。ここで、その一つの側面をまず取り上げる理由は、政策には国家予算が投入されるため、とかく政策評価も経済的な効果を主な関心事として問う傾向があること、そして近年の景気停滞を打開するための鍵を与えるものとして科学技術・イノベーション政策に対する期待が高まっていることにあります。科学技術と社会のインターフェースなどについては、回をあらためて論じたいと思います。

 ここからが本題です。経済的な付加価値の増大は、一国全体としては経済成長率によって測定されます。これは、ご存じのように国内総生産(GDP)の伸び率に他なりません。科学技術の経済効果は、この経済成長率に対して技術進歩率がどれだけ寄与しているのかを分析することによって評価されてきました。

 技術進歩率というのは、一言でいえば生産性の伸びです。一般的に生産性は、投入要素当たりの産出の規模によって測定されてきました。例えば、ある観測期間について、一国の生産活動の投入要素を就業者数で把握し、産出規模をGDPで定義した上、就業者1人当たりのGDPを割り出すと、代表的な生産性の指標である「付加価値労働生産性」が求められます。

 単純な数値例を示しますが、ある期間の投入要素が10単位、その産出が10単位であったとすると、生産性は1です。次の期間に投入要素を20単位に増大させたところ、産出も20単位に増えたとします。この場合、経済は2倍に成長したわけですが、生産性は前期と同じく1です。ところが、次の期間に投入要素20単位に対して30単位の産出が得られたとすると、経済は3倍に成長し、同時に生産性は1.5倍に伸びたことになります。ここで何が起こったと考えられるでしょうか。

 第1期から第2期にかけて何の技術進歩も生じておらず、同じ生産技術体系で生産を行ったとすれば、2倍に増やされた投入要素に対して、産出も2倍にまで成長することは道理です。しかし、産出が2倍に止まらず、3倍にまで増大したのであれば、その増分には何らかの技術進歩が寄与したと考えることができます。つまり、投入要素そのものに技術進歩の成果が埋め込まれていないと仮定すれば、経済成長は投入要素の増大による部分と、技術進歩による部分に分解できる訳です。この数値例では、産出の増分20単位のうち10単位は投入要素の増大、10単位は技術進歩によるものです。したがって、経済成長に対する技術進歩の寄与率は、50%であるということになります。

 先ほど、付加価値労働生産性を例として生産性の指標について説明しましたが、実際の生産活動の投入要素は労働だけではありません。一国全体の生産活動の本源的な投入要素としては、他に資本ストックを考慮する必要があります。これら投入要素の全てを考慮した上で計測される生産性は、全要素生産性(Total Factor Productivity: TFP)と呼ばれています。一般に、技術進歩率の経済的な尺度には、TFPの伸び率が用いられてきました。

 このような方法的視点で、最も早い時期に経済成長の分析を行った経済学者は、ロバート・ソローです。彼は1957年に発表した論文の中で、過去40年間のアメリカの経済成長は、実にその90%が技術進歩によるものであることを示しました。その後も、多くの研究者による分析や、各国政府の経済政策に関する文書の中で技術進歩率の計測が試みられています。

 技術進歩率の計測には、いくつかの方法がありますが、最も広く用いられてきたのは「成長会計」方式というもので、経済成長率から要素投入の伸び率を差し引くという方法です。このような方法は、要素投入の伸びによっては説明できない成長の「残差」として技術進歩を捉えるものです。しかし、そのような残差の全てが、技術進歩によってもたらされるとは限りません。生産技術に変化がなくとも、習熟効果やオペレーショナルな改善努力によって産出が増加することはあるからです。次回は、この問題に対する解決方法からお話します。

分野: 永田晃也教授 |スピーカー:

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