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QT PROモーニングビジネススクール > 過去の記事一覧 > 海外進出のリスクマネジメント(その4)(中村裕昭/経営リスクマネジメント)

海外進出のリスクマネジメント(その4)(中村裕昭/経営リスクマネジメント)

11/10/13

これまで3回にわたって、日本企業が海外に進出する際のリスクマネジメント
についてお話をしました。第1回目が「原材料が不足するリスク」、第2回目が
「日本と現地のミスマッチングリスク」、第3回目が「現地パートナー企業のリスク」
などです。

日本企業の多くは、国際化における何十年という歴史の中で、海外進出には
こうした多くの複雑なリスクがあることを認識しています。しかし、新たに海外
進出しようとする企業や、全く新しい地域や国に進出しようという企業は、思い
もよらないリスクに直面する可能性を軽視してはいけないということです。海外
進出のリスクに対応するためには、事前に調べたり、契約を慎重に行ったり、
何度も確認したり、現地で仲間を見つけるために色々と戦術を練ったりと、結構
なコストがかかってしまいます。そうした「調査コスト」「契約コスト」「確認コスト」
「モニタリングコスト」などを総称して、経済学では取引コスト(transaction cost)
と呼んでいます。海外に工場を建設したり、原材料を購入したりするコストは直接
コストですが、その他に「取引コスト」を見ておかなければならないということです。

経済学でいう取引コストとは、『事前に取引をセットアップする活動と事後に取引
を遂行するための活動に費やされる資源』という定義がなされています。実は、
「取引コスト理論」というのは、2人の経済学者がノーベル経済学賞を受賞したほど
の大変奥の深い理論があり、一言で説明することは困難ですが、取引コストが発生
する要因の1つは、「人間は情報の収集とか評価を完璧に行うことはできないため、
それを補うために色々とコストがかかるということ」、もう1つは、「人間は自分の
利益のために相手を騙す活動をする可能性があるので、騙されないためにコストが
かかるということ」です。こうしたコストは、まさにリスクマネジメントにかかるコスト
に通じるところがあります。海外進出をする場合には、工場建設コストや現地の労務
費などだけではなく、「取引コスト」を十分に検討しておかなければなりません。

このシリーズの最初に申し上げた通り、「円高」「税金」「貿易自由協定問題」「労務
関連規制」「環境対応」「電力不足」という六重苦は確かに辛いわけですが、海外進出
がリスクマネジメントコストに本当に見合うものなのかを見極める必要があります。
今までも多くの日本企業が海外進出に失敗して一社で何十億・何百億という損失を
計上しているケースが数多く存在します。勿論、その多くは、海外進出時点で相応
のリスクマネジメントの検討を行っているはずですが、それでも様々な問題が発生
しています。進出するのであれば、今までの多くの企業の失敗例や成功例をしっかり
と学んで、リスクマネジメントを更にしっかりと行うことが重要であると思います。

現代の経営者は、「(日本に)残るも地獄」「(海外に)進むも地獄」という辛い状況
に立たされています。経営というものは、まさに毎日がそうしたジレンマの連続と
いえます。このシリーズでは海外進出のリスクマネジメントをお話していますが、
では「日本に残ればリスクがゼロ」というわけではありませんので、「海外進出のリスク」
と「国内での事業継続リスク」の両方について比較衡量するプロセスが必要です。
どちらにも直接コストと取引コストがかかるわけですが、どちらのコストが大きい
のかということです。

今まで海外進出におけるいくつかの特徴的なリスクを紹介しましたが、他にも色々
とあります。あまり驚かせたくはありませんが、海外進出のリスクは数冊の本が
書けるほど多くの類型があります。例えば、(1)政情不安による生産の不安定化、
(2)外貨危機などによる輸入制限、(3)急激な賃金の上昇、(4)通貨の切り上げ、
(5)開示情報の不透明さによる現地企業の信用力の不透明さ、(6)朝令暮改の
法制度、(7)ストライキなどの労働紛争、(8)反日運動、(9)技術やノウハウ
の流出、(10)事業活動の許認可が下りない、(11)工場予定地の不法占拠、
(12)他の先進諸国の企業との人材の争奪戦、(13)港湾ストや道路事情などに
よるサプライチェーンの不安定化など、数多くの事例があります。

こうして検討してみると、「海外進出に成功している企業」が奇跡のように見えて
きます。グローバル化している企業は世界に数多くあり、成功のケースもよく宣伝
されていますが、やはり多くのグローバル企業が多大な授業料を払っている事実も
報告されています。今は成功していても過去には相当苦労したという例もあります。
もちろん長年グローバルビジネスを行っていれば、政治・経済・社会の変化によって、
様々なリスクに直面することになります。それでも失敗を乗り越えて、「日本国内でも
質の高い経営を行い」「海外においてもトップクラスを達成し」「進出国の現地社会からも
尊敬され」、息の長い海外ビジネスの成功を達成している企業ももちろん見られます。
我々研究者は、そうした企業を個別に取り上げて、成功要因を詳しくビジネススクール
などでも検討しています。結論からいうと、成功事例は失敗事例に比して「類型化」
することが難しいため、成功事例は個別に詳しく調査する必要があると考えています。

今までの私の話を聞いていただいたリスナーの方は、「海外進出のリスク対応には
時間とお金がかかる」という印象を持たれたと思いますが、海外進出はリスクマネジ
メントなしに成り立たないと思っています。従って、グローバル化に成功している
企業に対しては、大変な困難を乗り越えてこられたという観点からも、リスクマネジ
メントの研究者として深い敬意を払いたいと思います。

分野: 中村裕昭教授 |スピーカー:

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