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QT PROモーニングビジネススクール > 過去の記事一覧 > 海外進出のリスクマネジメント(その2)(中村裕昭/経営リスクマネジメント)

海外進出のリスクマネジメント(その2)(中村裕昭/経営リスクマネジメント)

11/10/11

前回は、海外進出した先で必要な原材料や部品が十分に調達できないリスクを紹介
しました。今日は、「日本の工場」と「海外の現地工場」とのミスマッチングリスクです。

実際に日本企業が海外に進出する際には「技術移転」が行われます。この場合の
技術移転とは、「製造技術の移転」「製品点検技法の移転」「機械器具のメンテナンス
手法の移転」など、製造プロセスに係わるさまざまな暗黙知の移転も含まれます。
ここで言う暗黙知は、マニュアルなどに書かれていない工場運営上のノウハウなど
です。日本の工場から海外の現地工場にこれらの移転が行われますが、移転側の
意図と受け入れ側の体制がしっかりかみ合わないリスクがミスマッチングリスクです。

これは海外の移転先の技術水準が低いことも考えられますが、必ずしも現地のせい
ではない場合もあります。例えば、進出に際して日本の工場が用意した簡単な「製造
マニュアル」だけでは、現地の人々にすぐ製造しろといっても何も出来ません。それも
日本語を英語に直して、更に現地語に訳したものを用意しても使い物にならないの
です。そのような簡単なマニュアルでは、日本で何十年もの期間を費やして築き上
げてきた暗黙知などのノウハウのカバーはできないからです。こうしたノウハウを
詳細にマニュアル化することは出来ません。従って、「改善」「工夫」「現場力」などの
ノウハウを短期間で移転することは困難です。そのため結局、品質を確保するために、
日本から派遣された日本人従業員が主要製造プロセスを担当してしまい、現地の
従業員には簡単なことしか割り当てないため、いつまでたっても現地への技術移転
は完了しないなどの問題も起きています。

現地の従業員に素質とやる気があっても、なかなか成長の機会が与えられず、日本
から派遣された社員ばかりが大忙しになるのです。他にも、高度な生産管理システム
や高度な製造システムを現地に持ち込んだために、現地の従業員が技術的な理解が
出来なかった例、あるいは1人で色々な製造技能を持った多能工を急ごしらえしよう
としたために、現地のスタッフが対応できないという問題も発生しています。日本で
出来たのだから現地でも大丈夫という考え方はなかなか通用しません。

このような問題が発生しないように、進出する前からリスク処理を検討しておく必要
があります。今回ご紹介したような「日本と現地のミスマッチング」リスクは、何か1つ
の施策で完全に防げるわけではありません。第一に考えられるのは、現地工場の
操業開始前に、現地の「核になりそうな従業員」を日本の工場でトレーニングする
ことです。
この人たちが、研修後に現地に戻って、中核的な役割を果たすことになります。
マニュアルではなくて、オン・ザ・ジョブ(On the job)の中で暗黙知を得ることが
重要です。現地を円滑に動かすためのノウハウを全て修得するのは困難ですが、
それでも「日本のものづくりの考え方」や「品質管理の方法」について実践的に学ぶ
ことが出来ます。日本に研修に来た現地従業員のノートに、製造上の注意点などが
びっしりと書き込まれているのを見たことがあります。

他のリスク処理手段としては、「現地での生産品目」について、最初から高度なレベル
のものを持ち込まないということです。つまり、初級、中級、上級品と徐々にグレード
アップし、生産に係る難易度を段階的に上げていく方法もとられています。現地の
従業員がある程度慣れた段階で、次のステップに進むという方法です。

段階的に能力を高めていくわけですが、期待するレベルまで達するには結構時間が
かかりますが、あまり悠長にしてはいられません。例えば、市場のニーズなどで、
現地で中級品を早急に製造する必要があり、現地の製造レベルは中級品が作れる
レベルにはないという場合もあります。その場合は、中級品については現地で全て
作るのではなく、本社工場である程度作ったものを輸送して、「組み立てだけを行う」
とか「高度な技術を要する部分以外の部分を製造する」などの対応も考えられます。
緊急時には、労働集約的な部分あるいは現地で対応できる部分を現地に担ってもらう
というようなリスク処理をすることになります。

もうひとつの方法は、日本本社の技術者を中心に、全く新しい「現地生産手法」を
企画することです。つまり、世界のどこでも同じものが作れるような「自動製造装置」
を本社で作ることです。技術水準、従業員の熟練度、歴史的な生産ノウハウの積み
上げなどが十分でない現地でも、無理なく一定レベルのものを製造するために、製造
過程を自動化することが行われています。勿論そうした自動化に適さない製品もあり
ますが、既に日本のメーカーは世界各地で同じものが作れるように、こうした自動
生産装置を開発済の会社も数多く出てきています。

ただ、それには莫大な開発費用が必要になります。自動製造装置の場合は、信頼できる
質の製品が作れるというメリットの他にも、製造ノウハウが簡単に外国に流出すること
がないという利点があります。

いずれにしても海外進出は一筋縄ではいきません。

分野: 中村裕昭教授 |スピーカー:

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