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日本企業における株式の持ち合い状況の変化とガバナンスについて(2)(ファイナンシャルマネジメント/平松 拓)

11/08/16

前回は、戦後から今日までの日本企業の株式持ち合いの展開をお話しましたが、今回は持ち合いが解消に向かうことの意味を考えていきます。その前に、まずは、持ち合いが行われた場合にどういう効果が生じるのかということから考えたいと思います。

■株主に対する経営者の立場の強化

持ち合いによって株主に対する経営者の立場がいくつかの点で強化されます。具体的には、株主の議決権行使を実質的に制約する、敵対的買収への対抗策を持つ、株価対策となる、含み益を用いた利益操作や配当が可能になるといったことがあります。順に説明します。

1つ目は、株主の議決権行使を制約するということです。持ち合いは複数の企業が相互に大株主となり、経営者に白紙委任状を出すということを意味します。そのため、それ以外の株主が株主総会で経営者に取り受け入れがたい要求、例えば経営者の交代を要求しても否決される可能性が高まるわけです。そういう意味で、一般の株主に与えられた議決権行使の機能を制約するということになるわけです。

2つ目は、敵対的買収への対抗策を持つことです。適切な経営が行われずに企業価値が下がっているような場合、敵対的買収のターゲットになり易い訳ですが、持ち合い株主が存在することによって敵対的な買収が成功する可能性が下がります。その結果、経営者が株価の維持、業績の向上に常に全力を傾けなければならないと考える牽制機能が弱まることがあります。

3つ目は、株価対策となることです。持ち合い株式というのは基本的に市場で流通しませんので、持ち合いを多く行っている企業の株式は、その分、市場への供給が減ることになります。結果的に需要と供給の関係で株価は上昇圧力を受けることになるわけです。従って、この点でも株価を高く維持しなければならないという経営者に対する牽制機能が弱まるということになります。

4つ目は、含み益を用いた利益操作や配当が可能になることです。バブル崩壊以前は、株価も全体的には右肩上がりの傾向にありましたが、企業会計上それを利益計上する必要はありませんので、持ち合い株式は含み益を生みました。これは、いざという時の利益のかさ上げや配当原資に使うことができました。そのため、業績悪化時に含み益を吐き出せるという安心感は、経営者にとっての常時の収益追求というプレッシャーを弱めたことになります。

■今後の日本はどうなっていくのか

これまで、株式持ち合いによって企業では、株主に対する経営者の立場が強化されるということ述べてきましたが、その結果、経営者は株主をあまり気にしないで経営を行うことができた訳です。それでは、最近の日本で株式の持ち合いが減少しているのはなぜでしょうか、また、その傾向は今後も続いて、その結果、経営者は株主重視の姿勢を強めて行くと考えられるでしょうか。

まず、株式の持ち合いが減少に転じた(これは90年代に入ってからの現象ですが)背景には、バブル崩壊以降株式保有リスクが高まったことにより、株式持ち合いのコストが大きくなったことがあります。それに加えて、金融市場の自由化によってメインバンクの重要性が低下、企業は資金調達の為に、直接資本市場と対峙是ねばなったこと、また、それもあって部分的とはいえ株式重視の姿勢を取り始め、ROE(Return On Equity、即ち、株主資本に対する利益率)を重視し始めたということがあります。つまり、持ち合い株式は全般的に資産としての運用利回りが低いので、その保有リスクが高まると正当化が難しく、メインバンクとの結び付きが弱まれば、銀行との相互持ち合いとはいえ例外ではなく、ROE低下要因でもあるので、なおさら正当化が難しくなったわけです。

それでは、今後、我が国で株式の持ち合いは引き続き減少し、今後は日本でも株主重視の経営の転換が続くのでしょうか。

この点については、今後、我が国企業が一層経営の国際化を進める必要があると思われる中で、当面はこの傾向が続くと考えられます。しかし、長期的にもそうかというと、必ずしもそうとは言い切れないと思います。その理由を2つ挙げてみましょう。

第一に、株式の持ち合いは経営者にとって、株主との関係上大きなメリットがあるというお話をしたわけですが、現状の株式の持ち合いの減少は、そのことを勘案しても正当化できない他の要因が生じているためと考えられます。つまり、持ち合いの解消が現在進んでいるのは、部分的には金融市場自由化など、経営者が株主を重視するような環境変化の結果という面があるものの、より本質的には、株式持ち合いのコストが上昇したことの結果であって、経営者による株主重視の姿勢への転換は、寧ろ持ち合いの解消の結果生じていると考えられることです。そのことは、逆に言えば、将来、持ち合い株式の運用利回りが高まる、あるいは企業にとってそれ以外の形で運用したとしても、持ち合い以上の利益が上がらないというような状況になれば、再び持ち合いが正当化されて株主重視も逆行する可能性があることことを示しています。。

第二に、日本の経営者がこれまで株主を重視してこなかったことは、何も勝手気ままな経営を行ってきたということを意味するわけではなく、株主以外のステークホルダー、特に従業員を重視してきたということでもあるわけです。それでは持ち合いの解消が進んだからといって、今後従業員重視から、寧ろ株主重視に転じていくのかといえば、必ずしもそうとも言い切れないと思います。それというのも、一般に、従来の企業にとっては、タンジブルな資産、つまり、工場設備などの生産手段が相対的に重要な資産であり、それを購入するための株主や債権者から集めた資本が重視されてきました。それ等によって製品を生産できたというわけです。その中で、相対的に技術を重視してきた日本企業では、技術の開発、維持の担い手である、従業員が相対的に重視されてきたと言えます。これからの企業を展望した場合、むしろインタンジブル(intangible)な資産、つまり、そうしたノウハウであるとか技術力であるとかいった資産、そして人材の重要性は益々高まって行くと考えられます。そう考えると、今後、わが国で「株主重視」というのが、「従業員重視」を上回って進んでいくとは、一概には考えられないのではないだろうかと思います。

分野: 平松拓教授 |スピーカー:

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