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QT PROモーニングビジネススクール > 過去の記事一覧 > 第5回「政策のための科学(1)」(科学技術・イノベーション政策/永田晃也)

第5回「政策のための科学(1)」(科学技術・イノベーション政策/永田晃也)

11/08/09

 これまで4回に亘って、科学技術・イノベーション政策の対象範囲、理論的な根拠、具体的な政策手段、日本の政策にみられる特徴などをお話してきました。今回から2回に分けて、近年の科学技術・イノベーション政策の中で推進されつつある取組について考えてみたいと思います。それは、「政策のための科学」と呼ばれる取組です。

 「政策のための科学」とは、言い換えれば「科学的な政策形成」を促進するための取組です。そして、政策形成が「科学的」であるということは、「客観的な根拠」に基づく—evidence basedな—政策論議が行われることを意味しています。一般的に公共政策は、問題の明確化とアジェンダ設定、政策の立案・採択、政策の実施、政策評価というプロセスを辿ります。政策分析は一連のプロセスの全てに関わりますが、特に「客観的な根拠」が求められるには、政策立案や政策評価のステージであると言えるでしょう。

 後で申し上げるように、「政策のための科学」というコンセプトはアメリカで発祥したものです。一方、アメリカに限らず、技術的な先進国における科学技術・イノベーション政策は、これまで全く客観的な根拠に基づかない、非科学的なものであったわけではありません。しかし、それにも関わらず、このコンセプトが近年の日本で重視されていることには、特殊な事情が関与しています。それは、ご存じのように事業仕分けの過程で近視眼的な政策評価が行われ、科学技術政策に対しても短期的な効果に関する説明責任が問われたということです。したがって、科学研究者のコミュニティからみれば、このコンセプトが浮上したきっかけは不幸なものだったかも知れませんが、それを政策の科学性とは何かという本質的な問題について再考するきっかけに転ずることができれば、幸運な転機になるのではないかと思います。

 では、政策の科学性とは何かという問題について考えるに当たって、まず「政策のための科学」をめぐる国内外の動向を概観しておきます。

 近年の動向を遡ると、その起点は2005年に、米国科学振興協会(AAAS)の科学技術政策フォーラムにおいて、科学技術政策局(OSTP)の局長であり大統領科学顧問であったジョーン・マーバーガーが行った基調講演に求められます。そこでマーバーガーは、連邦政府の科学技術政策担当者をサポートするための科学的な方法の構築を提唱しました。

 この所謂「マーバーガー・イニシアチブ」を受けて、同じ年にNSFによるSciSIP(Science of Science and Innovation Policy)というプログラムが開始され、2007年には研究助成が開始されています。

 欧州では、これに呼応する動きがみられました。例えば、英国では科学技術・芸術国家基金(NESTA)という機関が、2008年の「イノベーション国家白書」の中で、イノベーションの測定指標を構築すると宣言しています。

 同じ頃、日本でもイノベーションの測定という課題への取組は、文部科学省科学技術政策研究所において開始されていました。

 最近では、文部科学省の新規事業として、科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」の推進という事業計画が策定されています。これは日本版SciSIPと呼ばれている事業で、平成23年度から27年度を実施期間としており、いくつかの柱によって構成されています。そのひとつは、「政策対応型調査研究」という事業で、科学技術政策研究所によって担われています。もうひとつは、科学技術振興機構による研究開発プログラムで、こちらは公募型の研究助成事業です。また、人材育成拠点の形成や、研究の基盤となるデータに関する中核機能の強化などが事業の柱となっています。

 私は、これまで科学技術政策研究所での研究活動を通じて、こうした事業計画に関与してきました。現在、「政策対応型調査研究」の一環として、政府の研究開発投資がマクロ経済に及ぼす効果を予測シミュレーションするためのモデルの開発を進めているところです。

 このような研究テーマに関与するのは、今回が初めてのことではありません。実はモデルのプロトタイプは、1990年代の半ば、第1期科学技術基本計画が策定されていた頃に開発し、基本計画に盛り込まれることになった科学技術関係経費の経済効果に関する試行的な予測シミュレーションを実施しています。現在開発を進めているモデルは、このプロトタイプを発展させ、科学技術の分野ごとの投資効果の予測などを可能にしようとするものです。

 このモデル開発については、また機会を改めてお話したいと思いますが、ここで注意を促しておきたい点は、「政策のための科学」というコンセプトの下で推進されていることは、決して今に始まったのではないということです。政策の科学的な基礎づけの重要性は、繰り返し提起されてきました。そもそも「政策のための科学」を発祥したアメリカでは、1960年代に連邦政府での科学的な予算管理を目的としてPPBS(Planning-Programming-Budgeting System)という大規模なシステムが導入されているのです。

 では何故、科学的な政策は、繰り返し政策アジェンダにされてきたのでしょうか。この問いが、政策の科学性とは何かを再考する上での重要な手掛かりを与えるのではないかと私は思っています。次回は、この点に話を進めてみます。

分野: 永田晃也教授 |スピーカー:

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