QT PRO モーニングビジネススクール

QT PRO
モーニングビジネススクールWeb版

FM FUKUOKAで放送中「QT PRO モーニングビジネススクール」オンエア内容をWeb版でご覧いただけます。
ポッドキャスティングやブログで毎日のオンエア内容をチェック!

PODCASTING RSSで登録 PODCASTING iTunesで登録 電子書籍で記事を読もう! EPUB

過去の記事詳細

QT PROモーニングビジネススクール > 過去の記事一覧 > ギリシャ債務問題(2)(平松拓/ファイナンシャルマネジメント)

ギリシャ債務問題(2)(平松拓/ファイナンシャルマネジメント)

11/07/26

前回はギリシャの政府債務問題の話をしました。今回は債務問題の特徴に
ついてお話しします。

ギリシャ、アイルランド、ポルトガルなどヨーロッパにおける政府債務
問題が深刻になっていますが、これらの国が共通通貨ユーロを採用して
いることで、当初この問題は誤解されていた面があると思います。つまり、
ギリシャが債務不履行を起こしそうな状況になると、他のユーロ圏諸国
がギリシャを救済しなければならない、救済が行なわなければユーロが
崩壊する、そうでなければギリシャがユーロから離脱しなければならない
という論調です。

実際にはユーロ圏諸国が債務危機に陥った国を救済しなければならない
義務はありませんし、ユーロ圏に属するある国がデフォルトを起こして、
その結果その国の政府が、実質的に市場で国債を発行することができなく
なり税収の範囲内で予算を組まなければならなくなることがあり得ます。
しかし、こうした事態にどこかの国が陥るかどうかは別として、実際に
ユーロが崩壊する可能性は極めて低いと考えられますし、また、ギリシャが
ユーロから離脱することも、現実的には起こらないと考えます。むしろ
こうした誤解のおかげで、ユーロ圏諸国がギリシャを救済することが
当たり前と捉えられて、ギリシャの国債の格付けやその金利スプレッドの
拡大が深刻となるまで若干時間が稼げたのではないかと思います。

しかし、そのことがこれ等の国がユーロ圏やEUに属していても、政府
債務問題上、何ら影響を受けないということではありません。これらの
国々はユーロという共通通貨を採用しているため、経済政策選択の制約
という問題、そしてEUの同一経済圏により労働コストの安い国を抱え、
それ等の国と不利な競合をせねばならないという、いわゆる中進国の
ジレンマを抱えています。

先ず、普通の国の場合、経済を活性化するために、為替介入などにより
自国通貨を切り下げて、輸出を振興することが考えられます。また、
金融政策の緩和によっても景気を刺激して税収に繋げることもできます。
更には、自国通貨建ての国債の発行残高が大きくなり過ぎたとしても、
最後には中央銀行がその国債を買い取る選択肢が残されています。
長続きするかどうかはまた別の話ですが、日本の政府債務問題でも、
最後は日銀が買えばいいという話が時々出ているのと同じことです。
しかし、ユーロ圏諸国の場合、通貨を共有しているために、一国の為替
政策というのはあり得ません。また、中央銀行も共有しているために、
中央銀行の金融政策や国債の買い取り政策を一国の判断で行う訳には
いきません。むしろ現在は経済好調国に合わせて、インフレへの対策と
して金利が上がり気味です。

残されるのは財政政策のみになるわけですが、安定成長協定に沿った
財政赤字への対応としては緊縮政策ということになります。その結果、
景気にはマイナスの影響があり、税収も減少しますので、公営企業の
売却などを組み合わせて、何とか債務を減らさねばなりません。こうした
諸条件をユーロ圏諸国は共有しているために、一つの国の債務問題の
深刻化が、他の国の信用状態の悪化にも繋がるという、伝播性が強い
ということも、特徴と言えます。

もうひとつの中進国のジレンマは、同じ経済圏内により労働コストの
安い国々が存在することによる問題です。政府債務が問題化している
ユーロ圏の国についてみると、1973年にEUの前身ECに加盟して、
1人当たりGDPではEUの中でも上位にあるアイルランドを除くと、
ギリシャ1981年、スペイン、ポルトガル1986年と、これ等南欧諸国の
加盟は比較的遅く、、EU加盟によってそれぞれ経済的な恩恵はあった
ものの、1人当たりGDPレベルではEUの中でも低いレベルにとどまって
いました。ところが、2000年代に入りEUの東方拡大によって多くの
中欧諸国がEUに加盟した結果、南欧諸国はより所得水準の低い国々と
労働集約的産業で競争せざるを得なくなりました。しかも、EUでは関税
ばかりか通関手続きも撤廃されており、まさに一体化した市場でまともに
競争しなければなりません。いわば中進国のジレンマが極端な形で発生
したといえます。

更に特徴を挙げるならば、債権者(ここでは多くが金融機関です)が同じ
ユーロ圏諸国に集中していることがあります。債権者にとっても債務者に
とっても、同じ通貨で取引すれば共に為替リスクの問題がないので、ユーロ
圏諸国のファイナンスがユーロ圏の銀行によって行われるのは自然なこと
です。しかし、その結果債務不履行になると、他の地域よりも同じユーロ
圏諸国に属する国が大きな影響を受けることになります。ただし、借り入れ
国によって、その貸付金融機関の国籍には結構偏りがあります。例えば、
ポルトガルやスペインの国債の多くはフランスの銀行によって保有されて
います。その結果、債務問題への対応にあたってもEUの中で意見が分かれ
がちであり、それが問題を複雑にしていることもあります。

立場の違いが鮮明となっている背景には、欧州ではリーマンショック後の
金融危機対策として、銀行に対するストレステストを実施しましたが、
基準が甘く、その結果、問題銀行への資本注入など金融市場の健全化策が
必ずしも十分に行われずに終わったということもあります。このように、
同じ債務問題といっても政策手段の制約、強い伝播性など様々な特徴を
もつので、これまでの政府債務問題以上に慎重に順序だてた対応が必要
となっています。

分野: 平松拓教授 |スピーカー:

トップページに戻る

  • RADIKO.JP
  • ビビックスマホ