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QT PROモーニングビジネススクール > 過去の記事一覧 > いかにして研究開発の成功確率を高めるか(イノベーションマネジメント/永田 晃也)

いかにして研究開発の成功確率を高めるか(イノベーションマネジメント/永田 晃也)

11/03/15

 この前は2回に亘って、日本企業の研究開発活動にみられる近年の動向についてお話しました。特に前回の最後に注意を喚起した点は、研究開発費に対する営業利益の比で研究開発効率をみると、それは長期的に低下傾向を辿っているけれども、そのような問題の解決は、単に企業が基礎研究から手を引き、研究開発の内部統合度を下げることによっては達成されないだろうということでした。根拠データとして、私が平成20年度から21年度にかけて文部科学省科学技術政策研究所で実施した「民間企業の研究活動に関する調査」のデータを参照しましたが、その調査結果によれば、研究段階から開始されるプロジェクトの投資効率は、むしろ開発段階から開始されるプロジェクトよりも高いのであるから、問題は研究段階の成功確率を高めることにあるという点を強調しておきました。
 この論点から出発して、さらに二つの問題を論じるべきかと思います。一つは、では研究開発の成功確率は、いかにして高めることができるのかという問題です。もう一つは、研究開発を伴わなければ、イノベーションは実現できないのかという問題です。後者は、デザインが主導するイノベーションの可能性の問題として次回に取り上げることとし、今回は前者の問題について論じます。

 さて、どうすれば研究開発の成功確率を高めることができるかという問題は、技術経営における古典的な課題のひとつといって良いでしょう。研究開発プロジェクトに関する様々なマネジメント手法が、この課題に向けて提案されてきました。それらは、プロジェクトの評価に関する手法です。
 例えば、研究開発プロジェクトの事前評価について様々な手法が考案されてきました。事前評価とは、プロジェクトの開始前に、その技術的な成功確率や上市された場合の収益性を評価するものです。もし複数の開発オプションについて、そのような評価結果が得られるのであれば、より成功確率の高いオプションを選択することができる訳です。そのような事前評価には、何らかの技術予測を行う必要がありますが、その方法については以前お話したことがあるので、ここでは繰り返しません。ただ、プロジェクト・マネジメントの手法としては、技術予測の結果を俯瞰的に整理し、プロジェクト関係者の間でパースペクティブを共有しておくために技術ロードマップを作成しておくことが有用だということを付け加えておきます。
 研究開発プロジェクトの中間評価を行うことも、成功確率をコントロールする上で重要です。中間評価の手法に位置づけられるものとして、いわゆるステージ・ゲート法を挙げることができるでしょう。これは、アイデアの創出から上市に至るまでのプロセスをいくつかのステージに分割し、ステージの間には次のステージにプロジェクトを進めるか否かを判断するゲートを設けるというアプローチです。研究開発の成功確率を高めることが複雑な課題となるのは、そのプロセスに非常に多様な要因が関わっているからですが、この手法は、時間軸に沿ってそれらの要因を序列化し、課題を分解することによって、成功確率をコントロールしようとするものとして理解できると思います。

 こうした手法は、企業によって試みられてきたものですが、研究開発の成功確率を高めるという課題は、個別企業の努力のみで担われるには、あまりに負担が大きい場合があるでしょう。研究開発は不確実性の高い経済活動であるために、民間企業のみでは社会的に望ましい水準より過小な投資しか行われない可能性があるということは、かなり以前からケネス・アロー等によって指摘されてきた点です。そこで、民間部門の研究開発活動を補完する上で、どのような役割を公的部門が担うべきかが問われることになります。最も不確実性の高い科学的研究は、政府が国立大学や公的研究機関での研究活動を推進することによって担うべきだということになりますが、ここでの論点は企業内部で実施される研究活動の成功確率をいかに高めるかにありますから、他の方法について論じなければなりません。
 研究開発補助金という制度には、この点についてどのような効果を期待できるでしょうか。現在、日本では新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や科学技術振興機構(JST)等の機関によって、様々な研究開発補助金が提供されています。そのような補助金と、民間企業の研究開発効率の関係についても、「民間企業の研究活動に関する調査」の中で検討しています。調査結果によれば、公的補助金を受給した民間の研究開発プロジェクトは、受給していないプロジェクトに比して、明らかに研究開発期間が長期に及び、全体の研究開発費の規模も大きいものでした。すなわち、公的補助金は一企業で担うには負担の大きい技術課題に対して支給されている訳です。公的補助金を受給した研究開発プロジェクトの関係者にインタビューをいたしますと、その補助金があったお陰で長期に及ぶプロジェクトを存続させることが可能となり、上市にまで漕ぎ着けることができたという話をしばしば聞きます。適時に公的補助金を活用することは、研究開発の成功確率を高める上での方法たり得ると言ってよいでしょう。
 ただ、補助金政策そのものを評価する観点からみると、受給したプロジェクトの成功確率が高いほど政策的に妥当な資源配分を行ったということはできません。そもそも研究開発補助金は、成功確率は低くとも、成功した場合にもたらされる社会的利益が大きいとみられる技術課題を対象とすべきものだからです。この点は、昨今、科学技術や研究開発に対しても、短期的な費用便益の観点から政策評価を行おうとする風潮が顕著になっていることを私は憂慮しておりますので、何度でも強調しておきたいと思います。

分野: 永田晃也教授 |スピーカー:

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