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QT PROモーニングビジネススクール > 過去の記事一覧 > 日本企業の研究開発活動—近年の動向について(2)(イノベーション・マネジメント/永田晃也)

日本企業の研究開発活動—近年の動向について(2)(イノベーション・マネジメント/永田晃也)

11/01/05

「日本企業の研究開発活動—近年の動向について」(2)

 前回は、近年の日本企業が景気変動に敏感に反応して研究開発費を削減する
傾向にあるというお話をしました。今回は、何故そのようになってきたのかについて
考えてみたいと思います。使用するデータは、同じく文部科学省科学技術政策研究所が
実施した平成21年度「民間企業の研究活動に関する調査」によるものです。

 この点を説明できそうな要因のひとつは、研究開発の効率が低下してきたというものです。
これは先進国企業を研究対象とした様々な文献の中で指摘されており、
日本企業については慶応義塾大学の榊原清則先生などが同様の指摘を行っています。
日本企業のみについて指摘されてきた要因ではありませんから、
近年の日本企業の変化を完全に説明するものではありませんが、
そのような傾向が実際に存在するのであれば、研究開発費を削減する企業の
背景的な要因のひとつと捉えることができるでしょう。
 研究開発効率の低下という現象の原因として考えられるのは、
製品ライフサイクルの短縮や、回収される利益自体の縮小です。
そして、この認識の上に立った論者たちは、問題の解決策を研究開発活動における
自前主義の克服に見出そうとします。前にお話しした「オープン・イノベーション」が
注目される理由の一端が、ここにあります。
 しかし、実のところ研究開発効率の低下傾向とその要因が、どの程度一般的に
見出される現象であるのかは、明らかではありませんでした。そのような知見の
一般化可能性を確かめるためのデータが整備されていなかったからです。
 平成21年度「民間企業の研究活動に関する調査」は、そのようなデータのセットを
提供しています。そこでは、まず調査対象企業に、
「主要業種における研究開発の成果として得られた技術を用いた製品・サービスのうち、
かつては自社の業績に大きく貢献し、現在では既に市場における新規性を失っている事例」を
ひとつ特定してもらい、その技術の創出から、製品・サービスへの活用、
陳腐化に至るまでのライフサイクルを把握するための調査が行われました。
回答された事例は673件です。その技術に関する研究開発が開始された年代の分布は、
1960年代以前から2000年代までの長い期間に亘っています。

 この収集されたデータによると、当該技術から利益が得られた期間は
161.8箇月(13.5年)、年平均営業利益は5億3,300万円と計算されました。
また、これを研究開発の開始年代別に集計すると、一貫して利益が得られた期間は
短縮傾向にあり、年平均営業利益は減少傾向にあることが分かりました。
 つぎに、研究開発効率の指標として、回答された事例ごとに研究開発費総額に対する
営業利益総額の比を計測すると、その平均値は204.4と求められました。
これを、研究開発の開始年代別に集計すると、1960年代以前に開始された事例では
548.6、1970年代282.4、1980年代170.0、1990年代95.9、2000年代以降に
開始された事例では25.8と顕著な低下傾向がみられました。
 ただし、このデータ集計には、標本バイアスが影響を及ぼしている可能性があります。
回答企業に取り上げてもらった事例は、既に新規性が失われ、
かつプロジェクトに関する情報が提供可能な事例ですから、
古い年代に開始された研究開発の成果ほど、近年まで利益を生みだしてきた
寿命の長いものが選ばれ、他方、新しい年代に開始された研究開発の成果ほど
相対的に短命なものが選ばれているのかも知れません。
 そこで、このような標本バイアスをコントロールするための様々な分析を試みてみました。
ここでは詳細を説明する時間がありませんが、その結果は、利益回収期間の短縮と、
利益額の減少が、研究開発効率の長期的な低下傾向をもたらしているという
事実発見を確証させるものだったのです。

 では、このような傾向から日本企業が脱却するためには、
どのような方向に研究開発活動をシフトさせていくべきでしょうか。
 この論点に関連して、日本企業は基礎研究から手を引き、
研究開発機能の内部統合度を下げるべきだという主張が、
既に90年代にも行われています。このような勧告は、
イノベーションへの取り組みに際して自社内にケイパビリティの蓄積を図るよりも、
社外リソースの探索を勧める近年のオープン戦略の考え方とも一致するでしょう。
 しかし、今回の調査は、基礎研究段階や応用研究段階から開始されたプロジェクトは、
開発段階から開始されたプロジェクトに比して実施期間が長期に及び
費用総額も大きくなるけれども、利益が回収される期間が相対的に長く、
利益額も大きいという興味深い分析結果を報告しています。
研究開発効率指標を実施段階別にみると、開発段階から開催された事例は
142.3であったのに対し、基礎研究段階から開始された事例は215.3、
応用研究段階から開始された事例は291.4でした。
 ただ、この指標では各段階での成功確率が考慮されていないので、
この結果のみをもって、むしろ研究段階から開始される活動にシフトすることが
研究開発効率の改善をもたらすと言うことはできないでしょう。
問題は、いかにして基礎研究や応用研究の成功確率を高めるかです。
この成功確率を高める支援策の立案が、科学技術政策の最重要課題ではないかと思います。

分野: 永田晃也教授 |スピーカー:

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