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QT PROモーニングビジネススクール > 過去の記事一覧 > 日本企業の研究開発活動—近年の動向について(イノベーション・マネジメント/永田晃也)

日本企業の研究開発活動—近年の動向について(イノベーション・マネジメント/永田晃也)

11/01/04

 これから何回かに亘って、日本企業の研究開発活動が、
近年どのような動向をみせているのかについてお話してみたいと思います。
このお話の中で度々参照することになるデータは、
前回M&Aと研究開発の関係について触れた際にも取り上げましたが、
私が平成20年度から21年度にかけて文部科学省科学技術政策研究所で実施した
「民間企業の研究開発活動に関する調査」という政府統計調査によるものです。

 この統計調査について詳しくお話する前に、日本における研究開発活動の近況を
マクロに捉えておきたいと思います。企業だけではなく大学や公的研究機関を含めた
日本全体としての研究開発活動の状況は、総務省の「科学技術研究調査」という
統計調査によって把握されています。その21年度調査報告によると、
平成20年度の日本の研究開発費総額は18兆8001億円でした。
これを対前年度比でみるとマイナス0.8%となっていますが、
この減少には金融危機の影響が反映されているとみてよいでしょう。
 ところで、この約19兆円の研究開発費のうち、実に72.5%が企業によって
支出されています。この企業による使用割合は、他の先進諸国に比べても
やや高いレベルにあります。長期的にみれば、この企業による活発な研究開発活動が
生産性の向上をもたらし、日本の経済成長を支えてきたことは明らかです。
 成長会計(growth account)と呼ばれる方法では、経済成長は、資本ストックの増大、
労働投入量の増大、全要素生産性(total factor productivity)の伸びで測られる
技術進歩に分解されます。人口がピークアウトすることによって労働投入量が減少し、
資本コストも高くなると、経済成長に対する生産性上昇の寄与は益々重要になります。
この生産性上昇が研究開発と強い相関を持っていることは、多くの実証分析が示してきました。
 実際、一旦リセッションに陥った際に企業の研究開発投資が停滞すると、
経済成長は容易に回復しません。「失われた10年」などと呼ばれる1990年代の
不況期の要因として、労働時間短縮の影響とともに生産性の低下が指摘されていますが、
この期間を通じて企業の研究開発投資は伸び悩んでいました。研究開発の成果を
新製品や新製法などのイノベーションに結びつけるための設備投資も長らく停滞しました。
その当時の統計データをみると、背筋が寒くなるようです。
 日本のイノベーション・システムの特徴として挙げられてきたポイントのひとつは、
メインバンク制や株式の持ち合いといった株式市場の特徴を反映して、
日本企業は研究開発投資や設備投資において、長期的な成長を目的とした
投資行動をとるというものでした。しかし、この通説は、最近、一橋大学の野間幹晴氏らの
研究によって批判されています。アメリカなどの海外企業よりも、日本企業の方が
近視眼的な投資行動をとっているというのです。90年代の状況を振り返ると、肯ける分析結果です。
 最近の研究開発投資の低迷が、今後の経済成長に及ぼす影響も懸念されるわけです。

 さて、「民間企業の研究活動に関する調査」の対象は企業に限られますが、
その研究開発活動については、かなり詳細な実態を明らかにしています。
 平成20年度調査以降の調査対象企業は、資本金1億円以上で研究開発を
実施している全ての企業になりました。21年度調査の対象企業数は約3,300社で、
回収率は43%でした。これからご紹介する調査結果の詳細については、
文部科学省科学技術政策研究所のホームページに掲載されておりますので、
そちらをご参照ください。

 まず、最近の研究開発費の増減要因に関する調査結果をみておきたいと思います。
21年度調査では、2006年度から2008年度までの3年間における研究開発費の増減を調査し、
10%以上減少した企業には、その減少理由を聞いています。調査結果によれば、
10項目の選択肢の中で最も回答割合が高かったのは「売上高・利益の減少又はその見込み」の
52%でした。特に人件費を減少させたとする回答割合が高くなっています。
日本企業が、景気変動に敏感に反応して研究開発費を削減した様子が窺えます。
 また、研究開発費の総額を、どのような基準で決定しているのかを質問した結果によると、
「実施すべき研究テーマ予算の積み上げ」とか「前年度の研究開発費の実績」といった、
研究開発費の支出レベルを安定させる傾向を持つ方式の採用比率が最も高くなっているのですが、
これらに次いで「その時々の戦略的な経営判断」「当年度の売上高や営業利益見込み」
「経済全体の好不況の見通し」といった、研究開発費を変動させる傾向を持つ方式の
採用比率も高くなっていることが分かりました。
 実際、売上高の増減傾向と研究開発費の増減傾向の関係を分析した結果では、
統計的に有意な相関が見出されています。

 日本企業は、何故かつては聖域扱いされていたこともある研究開発費を、
以前に比べると簡単に削減するようになったのでしょうか。
次回は、この点について考えてみたいと思います。

分野: 永田晃也教授 |スピーカー:

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