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QT PROモーニングビジネススクール > 過去の記事一覧 > 統計から見た企業戦略(ファイナンシャルマネジメント/平松拓)

統計から見た企業戦略(ファイナンシャルマネジメント/平松拓)

10/12/21

前回は、統計から読み取る企業活動ということで、資金循環統計について話しました。
今日は、財務省が作成している法人企業統計から企業の資本戦略を考えてみましょう。

昨日は資金循環統計から、バブル崩壊以降、企業部門の資金余剰が顕著となっていて、
資金不足から余剰への転換点は2度の石油ショックを経た80年代にあるだろうということを
話しました。今日お話しする法人企業統計には企業の損益、資産、負債状況等についてのデータが
集計されていますが、この統計で企業の資本調達状況を過去に遡ってみると、
資金循環から読み取れる現象を裏付ける変化が観察されます。
すなわち金融機関を除いた企業は、80年代以降一貫して資金を内部に留保、
あるいは負債の返済を行うことで自己資本比率を高めている姿が見てとれます。

1970年代半ば頃は日本企業の自己資本比率は、資本金が10億円以上の大企業も
それ以下の中堅、中小、零細企業も平均すると大体15%くらいでした。
しかし大企業ではその後ほぼ一貫して上昇を続けて、現在では40%を超えています。
資本金1億円以上の中堅企業については、その後しばらく変化はありませんでしたが、
バブル崩壊の影響で金融不安や銀行による貸し渋りなどが盛んに取り沙汰された
90年代の半ば頃から上昇に転じ、現在では35%程度まで上昇しています。

この傾向は製造業、非製造業問わず基本的には共通していますが、
この2つを対比してみると、その進捗に差があることがわかります。
製造業大企業では60・70年代こそ借入依存率が自己資本比率をはるかに上回っていましたが、
これが80年代半ばには逆転して、現在では20%程度自己資本率が上回っています。
また、それ以下の規模の製造業でも、2000年代の半ば、2004・2005年あたりに
自己資本比率が借入依存率を上回っています。

一方の非製造業では全体的に借入依存率が製造業より高い水準となっていますが、
それでも製造業同様、自己資本比率は上昇傾向にあって、大企業では
2000年代に入ってから自己資本比率が借入依存率を逆転しています。

こうした背景には、いくつかの要因が考えられます。
第1には企業が従来の高過ぎたレバレッジ、即ち自己資本に対する総資産の割合、
借入依存率の修正を図っているということです。
日本では戦後、企業が過小資本のまま売上規模拡大のための設備投資を
盛んに行ってきた経緯があり、それを支えてきたのが不動産等の含み益、
或いはメインバンク制を拠り所とする銀行融資でした。
しかし、金融の自由化や経済のグローバル化、更には我が国の経済の成熟化
といったこともあって、企業と銀行との関係も変化しつつあり、銀行への依存が
見直されてきているということがあると思います。
第2には、BIS規制やバブル崩壊により銀行のバランス・シートが劣化したこと
で、銀行の貸出余力が一時的にせよ低下したこと、更には担保主義に変わって
企業与信のよりどころとなるべき企業のリスク評価方法がまだ確立したとは言えない、
といった貸し手に起因する問題が存在したことです。また、企業にとってみると、
債券市場という銀行借入に代わる負債手段の整備状況が十分でないという、
技術的な問題が制約となっている可能性もあります。
第3には、低成長経済に入って、企業経営者が有効な投資機会を
見出せていないことから、余剰資金をとりあえず返済に回しており、
一方で配当や自社株購入といった株主還元もそれほど行っていない可能性があります。
おそらくこれらの3つの要因が時期によって濃淡を示しながら、
この30~40年間の変化に影響してきたのではないかと考えられます。

これらの中で現在最も憂慮されるのは実は3番目の問題かもしれません。
経営者にとってはリスクが高めの投資はなるべく避けて負債を返済し、
内部留保を厚くしておけば、倒産のリスクは減少しますし、利益も出しやすくなります。
いってみれば安全運転路線ということですが、これは自己資本、言い換えると
株主資本のコストを見落とした経営を意味します。

株式投資は一般に銀行などが行う貸し付けよりもリスクが高いので、
企業が株式発行による資金調達を行う場合、投資家は銀行が行う融資よりも高い
利回りを期待して投資します。即ち、企業にとって銀行借り入れなどより
高コストの資金調達と見なされるべきものなのです。
つまり企業が自己資本を充実すればするほど、その収益率、収益力を高めて
株主へ還元していかねばならないことになります(株価上昇も株主還元に繋がります)。
そのためには企業はリスクのある案件についても、そのリスクをマネージしつつ
相対的に低コストの外部資金を負債という形で組み合わせながら投資を行っていかないと
低い収益率しか生み出せないのです。

勿論、環境の厳しさはありますが、法人企業統計の数字は、日本の企業経営者に
チャレンジを求めているとも読めるのではないでしょうか?

分野: 平松拓教授 |スピーカー:

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