QT PRO モーニングビジネススクール

QT PRO
モーニングビジネススクールWeb版

FM FUKUOKAで放送中「QT PRO モーニングビジネススクール」オンエア内容をWeb版でご覧いただけます。
ポッドキャスティングやブログで毎日のオンエア内容をチェック!

PODCASTING RSSで登録 PODCASTING iTunesで登録 電子書籍で記事を読もう! EPUB

過去の記事詳細

QT PROモーニングビジネススクール > 過去の記事一覧 > 為替介入についての解説(ファイナンシャルマネジメント/平松拓)

為替介入についての解説(ファイナンシャルマネジメント/平松拓)

10/11/01

9月の半ばに日銀が為替市場介入を行いましたこれは。実に6年半ぶりのことです。
日本銀行が行ったのは円売りドル買い介入で、折からの円高に傾向に対して財界等より金融・為替政策による円高対策を強く求められていたことに応えたものです。まず、東京市場で介入を行い、その後もロンドン、ニューヨークといった海外市場でも直接介入を続け、その規模は1日で2兆円と過去最大規模と言われています。

日銀が介入といっても、実際に介入を決定する権限を持っているのは日本銀行ではなくて財務大臣であり、また、具体的な介入方法を決めているのも財務省の国際局です。介入の為の原資も財務省が管理している国庫(外国為替資金特別会計)であり、日銀の役どころは政府(財務省)の為に実際に市場参加者との間で取引(deal)をすることです。
日銀が外国為替市場でドル買い介入をすると、同市場の慣行に従って2営業日後に円、ドルの決済が行われることになります。

今回は為替相場が円高になったことで、日本企業の国際競争力が懸念されたことが介入の背景となった訳ですが、そもそも為替相場は何故動くのでしょうか。
為替相場というのは我が国のお金「円」と外国のお金「ドル等」との相対的な価格であり、それを左右する最も根本的な原因はそれぞれの需給です。この需給は複数の種類の取引に伴って発生しています。

第一には貿易やサービスなどの取引の決済です。昔はこれが大きなウェイトを占めていました。第二には国際間の証券取引や融資取引などの資本取引(金融取引)です。第三には為替相場などの将来の予想に基づく投機取引や自己実現的な投機取引、そして市場の歪みを確実にとらえて鞘稼ぎをする裁定取引などです。近年では通信技術の進歩や多くの国で資本取引に関する規制緩和がすすんだことで、需給を大きく左右するのは第二と第三の取引、即ち投機を含む資本取引となっています。

それでは政府が為替相場に影響を及ぼすためには、どのような方法があるでしょうか。
政府が為替相場に影響を及ぼすためには、こうした通貨の需給を何らかの方法でコントロールすれば良い訳ですが、それにも複数の手段が考えられます。主なものとしては、第一に需給の出入り口を絞ったり広げたりするという意味での外国為替規制を行うことです。具体的には貿易取引や資本取引に関する規制がこれに当たります。第二には需給の発生に繋がる取引の原因・源に影響を与えるという意味での、国内の産業政策やマクロ金融政策によるものです。中でも通貨による金利差が国際間の資本移動の大きな誘因となっていることが多いので、金融政策が重要性を持っていると言えます。そして第三には政府そのものが取引者となって、通貨の需要者や供給者になる為替介入です。こうした形で通貨の需給を為替介入で自動的に調節して為替相場を一定に保つのが、中国が実質採用しているような固定相場制ということもできます。

それでは、今回は何故為替介入が選択されたのでしょうか。
一般論として、先進国にとって自国通貨の為替相場に影響を及ぼすための手段の選択肢は多くはありません。即ち、関税や貿易規制はWTOの縛りもあって自由に発動できませんし、そもそも輸出規制をしたのでは円高を修正する意味がないことになります。また、資本規制も先進国が独自に導入することには国際的な問題を生じる可能性が高く、同時に自国の金融機関が大きな打撃を受けるおそれもあります。また金融政策も、本来は為替相場調整のための手段というよりは、財政政策と並んで国内の景気対策としてのマクロ経済政策の重要な柱であり、為替相場調整の目的で用いられることは多くありません。

ただ、現状は先進各国ともリーマンショック以降の大きく落ち込んだ国内経済立て直しのために金融・財政政策共にほぼフル回転の状態にあって、財政政策については政府債務の拡大など副作用に対する懸念が膨らんでいることから、金融政策により大きな負担がかかりつつあります。そればかりでなく、金融緩和は結果として資本が流出して通貨安に繋がりますが、それが輸出増を通じて国内需要の創出にもつながることから、金融緩和策には副次的な効果もある訳です。今回の円高の原因となったアメリカによる積極的な金融緩和策の背景には、そうした狙いがあったのではないかと見られる所以です。

ところが日本については、名目金利はほぼゼロで引き下げ余地がないことから、金融政策は手詰まりというのが、日銀の基本的な態度でした。その後日銀のスタンスはより積極的に転じ、従来は用いられてこなかったような手法も交えながらの金融緩和策を採りつつありますが、そうした狭間で選択されたのが、第三の為替介入であったといえます。

政府による為替市場への介入は、個々の市場参加者にとっては規模も大きく、為替相場に直接の影響を与える他、市場に心理的影響を与える効果もあります。介入があるかもしれないという憶測だけでも相場が一時的に動くこともあります。しかし、それも莫大な規模の資本移動の下では、一国による単独の介入では自ずと限界があり、効果が薄いというのが定説となっています。かといって、欧州、アメリカなど先進国の多くで輸出の拡大が金融危機後の景気回復の牽引力として位置付けられている中では、円高を修正するような協調介入について合意が得られる可能性は薄い状況であり、そのような状況で行われた介入でした。もちろん、こうした介入の限界については政府当局者も十分に認識しているはずで、そうした中でも当座の円高圧力に対処する選択肢が限られていたことから、やむを得ず採られた措置であったと思います。

こうした介入に関しては、その効果や結果としての短期的な相場の水準を巡って云々しがちですが、より重要なのはむしろ、今回のような円高によって従来以上に深刻な影響を受けてしまいかねない我が国経済の構造そのものであり、如何に改革を通じて成長に繋げていくかという戦略に知恵を絞り、変化を恐れず着実に実行していくことではないでしょうか。

分野: 平松拓教授 |スピーカー:

トップページに戻る

  • RADIKO.JP
  • ビビックスマホ