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QT PROモーニングビジネススクール > 過去の記事一覧 > 企業の境界とイノベーション(1) (イノベーション・マネジメント/永田 晃也)

企業の境界とイノベーション(1) (イノベーション・マネジメント/永田 晃也)

10/10/18

この前は2回に亘って「オープン・イノベーション」というトピックについてお話しました。
オープン・イノベーションとは、企業が社外のアイデアを積極的に取りいれて、
自社のイノベーションに結びつけ、また社内の未活用のアイデアを、
積極的に社外で活用してもらう取り組みとして定義されるものでした。

要するに、それはイノベーション・プロセスにおいて、
企業の境界(boundary)が外部に開かれている状態を意味しています。
言い換えれば、近年のオープン・イノベーションに対する関心の高まりは、
企業の境界をコントロールすること自体が、
イノベーションを促進するためのマネジメントにおいて、
重要な論点になってきたということを示しているわけです。

企業の境界が変化するということは、イノベーションにどのような影響を及ぼすのでしょうか。
今回から2回に分けて、この点について考えてみたいと思います。


私たちが企業という組織について考えるとき、メカニックなシステムではなく、
むしろ生命体のような有機的なシステムとして捉えていることが多いのではないでしょうか。
企業は生き物であるという捉え方は、イノベーションというダイナミックな変化を、
引き起こす主体としての企業を理解するときには、たいへん有効なメタファーです。

そのように捉えられた企業のイメージには、経営資源のかたまり、
あるいは業務プロセスの束としての明確な輪郭線すなわち境界が引かれています。
しかし、実際の企業の境界(社内で行われる業務の範囲)は、
業務の外部委託、戦略提携、M&A等によって、それ自体ダイナミックに変化するものです。
そのため、今日のように活発なM&Aが行われている経営環境の下では、
生命体のメタファーに依拠した企業観は、輪郭線を画定することに常に失敗してしまいます。
このことは、経営資源のユニークなかたまりとして企業を捉える、
資源ベース理論に代わる新たな企業の理論が、今日求められていることを意味しています。

この点を私は重要なチャレンジとして受け止めていますが、
非常に抽象的な議論になるので、ここでは立ち入りません。
ここでは、まず企業の境界を決定する要因は何かという点から考えてみたいと思います。


企業境界の決定メカニズムについては、
ラングロアとロバートソンが図式的な説明を行っています。

かれらは、様々な活動(アクティビティ)を統合するために要するコストと、
そのアクティビティを市場で調達する場合にかかるコストの差によって、
活動に行う能力(ケイパビリティ)が内部化される程度、
すなわち企業の境界が決定されるとしました。
つまり、能力を企業内部に統合するためのコストが、
市場での調達にかかるコストよりも小さい場合、その能力は内部化されるというわけです。

ここで重要なことは、統合にかかるコストと、市場での調達にかかるコストを構成する要素です。
統合にかかるコストには、直接的な生産コストの他に、
組織のガバナンスに伴って発生するコストが含まれます。
そのような管理コストは、予め企業内部に蓄積されていた、
組織的な能力のレベルに左右されるでしょう。
この点に着目して、企業境界の決定メカニズムを説明しようとする理論的な立場は、
資源ベース・アプローチと呼ばれるものです。

一方、あるアクティビティを市場で調達する場合には、
直接的な対価の他に、市場取引を利用すること自体に伴うコスト、
すなわち「取引コスト」がかかります。
古典派の経済学は、市場のメカニズムを説明する際に、
完全競争市場というモデルを用いましたが、
そこで仮定された「情報の完全性」は現実には存在せず、
企業は市場取引に際して、取引相手、
調達しようとしている財・サービスの種類、価格、
品質等の様々な情報を探索しなければなりません。

その探索行動には、相当のコストがかかります。
特に財・サービスの性質が複雑になると、
取引の妥当性を客観的に判断するためのコストは増大します。
また、業務委託のような調達方式をとる場合には、
契約後も相手先に対するモニタリングのコストがかかります。
このような市場の利用そのものにかかるコストを、
アクティビティが統合される要因として重視する立場は、取引コスト・アプローチと呼ばれています。


ここで、オープン・イノベーションが成立する条件についてお話した際、
技術的要因、組織内要因、外部環境要因という、
3つの要因を取り上げたことを思い出してください。

このうち組織内要因とは、社外のアイデアを社内のイノベーション・プロセスに統合するために、
必要な組織能力が蓄積されているかどうかという点であり、
それは資源ベース・アプローチによって重視されてきた要因に他なりません。

また、外部環境要因とは、社外のアイデアを仲介する市場が、
十分に存在しているかどうかという点ですが、
それは取引コスト・アプローチによって重視されてきた要因に深く関係しています。
仲介市場が成熟していれば、社外のアイデアを探索するための取引コストが節約されるからです。

このような組織能力や取引コストに関する諸条件を分析して、
企業がイノベーション・プロセスに関する企業境界を決定できるのであれば、
ひとまず意思決定問題は解かれたことになるのですが、
この問題はそれほど単純ではありません。

イノベーションに関する諸条件とは無関係な次元で、
企業境界の方が先行的に変化してしまうことがあるからです。
例えば、企業がイノベーションの諸条件を全く考慮せずに、
M&Aを実施した場合には、そのような問題が起こります。

次回は、この点について考えてみたいと思います。

分野: 永田晃也教授 |スピーカー:

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