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QT PROモーニングビジネススクール > 過去の記事一覧 > 円相場水準についての考え方(ファイナンシャルマネジメント/平松拓)

円相場水準についての考え方(ファイナンシャルマネジメント/平松拓)

10/09/29

ドル・円の為替相場が8月半ばに80円台の前半を割り込んで以来、
円高が日本の経済の問題(障害)としてクローズアップされています。
今回の円高の背景にはギリシャ問題などの欧州の金融不安によるユーロ安、
それから回復に不透明感が増した米国経済で一層の金融緩和策が
採られたことなどが背景にあります。ドル円相場はリーマンショックの1年前、
2007年夏には1ドル120円前後でしたが、15年ぶりに85円を
割り込んだことで、2年間で30%も円が高くなったことになります。

30%もの円高になると、輸出企業は現地での現地通貨建て販売価格を相当
引き上げないと利益を確保できないことになりますし、そうかと言って
価格を上げれば販売数量が大きく落ち込むことを覚悟せねばなりません。
逆に輸入業者にとっては我が国で逆の現象が起きる訳ですが、
国内で製造販売を行っている企業にとっては、安価な輸入品が流入して
市場を奪われる恐れがあります。

それでは我が国の企業がこの円高で、どれだけの影響を受けているか
考える場合に、この1ドル120円とか85円とかいう、円ドル相場の
字面をそのまま受け取っておけばよいのでしょうか?
その答えは、「必ずしもそういうことにならない」ということです。

日本の物価上昇率は過去20年間、欧米諸国よりも一貫して低く、
人件費も同様に低い伸び率にとどまってきました。こうした状況では、
欧米企業ほどコスト増加圧力に晒されていない日本企業の自国通貨建て
製造コストは相対的に安価となるわけで、為替相場が同じ水準に
留まるならばそれは日本製品にとって有利となることを意味します。
即ち、バランスするためには、相場が円高になる必要がある訳です。

こうした考え方による判断基準が「購買力平価」です。
これは「2カ国間の為替相場の推移は、長期的にはインフレ率の
差を反映する」という考え方に則ったもので、為替相場の長期的な
均衡点として良く参照されます。比較的用いられることの多い、
変動相場制移行の1973年を基準年とし、卸売物価を用いた
計算では、7月時点の購買力平価は110円近辺でした。つまり、
80円台という実際の水準は、かなりな円高であったと言えます。

しかし、これについては、「何時を基準点とするか」、「どういう
インフレ指標を採用するか」によって、結果が大きく違ってくる
という問題があります。過去の推移をみると、実際の相場水準が
この購買力平価より円安の水準にあった期間は短く、円高の期間が
圧倒的に長かったことを考えると、基準点の取り方に偏りがある
という見方もできます。

また、日本の企業の競合相手は必ずしも米ドルで給料の支払われる
アメリカの企業ばかりではないので、為替レートとして対米ドル相場だけ
考えていたのでは極く一面しか見ていないことになります。
その点で、一つの参考データとされているのが、「実質実効為替相場」
の考え方です。これは日本銀行やOECDが毎月発表を行っています。

こちらはもう少し複雑で、日本の輸出入相手上位何カ国かについて、
その国の通貨が基準時点の対円相場と比較してどれだけ円高になったか、
円安になったかという名目の変化率を、各国と日本の物価上昇率の
違いで調整し、日本の輸出入額にしめるシェアで比例配分したもの。

日銀の公表しているものによりますと、円の価値(注:相場ではない。
大きい方が円が高い。)は、2005年1年間を100とする指数でみて、
今年の8月は104.25でした。これはリーマンショックの前1年間は
80近くまで下がっていたことと比較すると相当な円高になっていることを
示しています。しかし、この指数の推移をもう少し長い期間眺めると、
大分状況は違って見えます。

1985年のプラザ合意による円高調整後から2004年迄の20年弱の
期間の推移でみると、この指数が100を割っていた期間は短くて、
僅かに1990年と1998年に数カ月あるぐらいです。逆に今から15年前の
1995年の中頃には150に達しており、また、10年前の2000年でも
125前後で推移していました。つまり、こうしてみると、104という
数字は過去との比較では決して高い方とは言えません。

また、日本企業は極端な円高の進んだ1995年や2000年頃に、
海外現地生産や原材料の海外調達などの円高対策を進めて
実質実効相場が100を上回っても利益が確保できる態勢を作り上げており、
実質実効相場が100を下回っていた2001年以降は(リーマンショックは
余計でしたが)厚めの利益を確保していた可能性がある、という
解釈もできることになります。

しかし、この実質実効相場もそれを信じ切ってしまうのも危険です。
というのは、統計データとしての限界もあり、また、時間の経過と共に
経済情勢も大きく変化しているからです。例えば、取引相手国との実質為替
相場を貿易取引額の国別シェアでウェイト付けする訳ですが、
我が国の輸出企業が海外の市場で競う相手は、その国の地場企業とは限りません。
第三国の輸出企業かも知れませんが、第三国との競合優位性については
考慮されていません。また、近年の中国との貿易取引の飛躍的拡大に
象徴されるように、基準時点と現在では輸出入相手のシェアが
大きく変わっていることでも歪んでいる可能性があります。

また、為替相場以外の競争環境が大きく変わっていることもあります。
昔は日本企業の競争力が圧倒的で、円高の問題は「外国企業に市場を奪われる」
ということより、「販売価格の上昇で海外の消費者の需要が落ちる」
という面が強くありました。つまり、日本企業は利益が最大化するように
様子を見ながら現地価格の引き上げを行うことができました。
しかし、今日では、エレクトロニクス製品などに見られるように、
日本企業は韓国や中国企業と生き馬の目を抜く競争をさせられています。

以上見てきたように、日本企業にとっての円高の影響を判断する上で、
相場水準を評価するための指標は複数用意されています。
それぞれに有用ですが、しかし、そのどれについても
それをそのまま鵜呑みにすることは問題があります。
目的に照らし、それぞれの限界を認識した上で利用する、
そんな姿勢が特に重要となっているテーマであると思います。

分野: 平松拓教授 |スピーカー:

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