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QT PROモーニングビジネススクール > 過去の記事一覧 > ボルカールール1 (ファイナンシャルマネジメント/平松拓)

ボルカールール1 (ファイナンシャルマネジメント/平松拓)

10/04/13

米国における金融規制強化の検討は金融危機の直後より始まっていましたが、
今、議会において法案の審議が行われているところです。
その中で注目されるのが、今年1月下旬にオバマ大統領が示した
新しい規制強化の方針が、どのような形で盛り込まれるかということです。

この新しい規制強化の方針とは、
第一に、銀行が自己勘定でヘッジファンドや未公開株など
リスクの高い業務への投資、あるいはそうした
業務を行う関連会社を持つことを禁止することです。
第二に、銀行の負債の市場シェアに上限を設けて、
合併などによって銀行の巨大化を防ぐこと、
第三は、銀行以外のノンバンクにも
自己資本規制的な制限などを設けるというものです。

この考え方は、この強化案の立案者である
FRBの元議長のポール・ボルカーの名前をとって、
ボルカー・ルールと呼ばれていますが、この規制強化案は
発表時に2つの意味で関心を集めました。

1つは、この強化案は今までG20やバーゼル銀行委員会などで
既に議論されているものとは性格が大いに異なるということです。
これまでの規制案は、金融機関の自己資本増強により
危機への対応力を付けさせる、あるいはデリバティブズを
取引所経由としたり、格付けシステムを改善することで、
金融機関がリスクのコントロールをしやすくするというものでした。
また、同時に金融機関の役員の報酬制限や
当局が金融監督体制を強化することによって、
金融機関が過大なリスクをとりにくくすることなどが含まれていました。
これらはいってみれば、現状の巨大化した金融機関を前提に、
経営ミスを防ぐ、あるいは早期に修正して
危機の再発を防ごうというものでした。

ところが今回の案は、分かりやすく表現すれば、
銀行のできる業務の幅を絞ってしまうことで、
経営危機に陥る可能性を減らすというものです。
同時に銀行の資産規模を制限してしまうことで、
銀行がそれでも経営危機に陥ったら破綻させ、税金を投入してまで
支えるようなことをしないためのといえます。

つまり金融機関が経営ミスをしても、経営危機までは至らせない。
仮に経営危機に陥って銀行が破たんすることがあっても、
経済全体の混乱を招かないような形に予めしてしまおう。
そういう狙いがあると考えられる点で、発想が根本的に異なります。

もう1つは、この規制強化案が発表された
政治的なタイミングです。
アメリカのサブプライムローン問題から
世界規模に拡大した金融危機ですが、
各国の大幅な財政出動あるいは
中国・インドなど新興国の成長もあり、
全般には昨年より回復過程にあります。
しかしアメリカでは雇用の回復の遅れが深刻に捉えられ、
オバマ政権の支持率が急落していた時期に当たっていました。
一方、その金融危機に際して政府の支援を受けた
一部の金融機関では業績が急回復しているところがあって、
一部金融機関の幹部は高額なボーナスを支給され、
家や職を失い苦しむ人々の神経を
逆なでするといった状況でもありました。

そこでこの規制強化案も、市民の怒りの矛先を
危機のそもそもの原因でもある金融界に向けさせて、
自らに降りかかる火の粉を払うことを狙ったものだ
という、やや意地の悪い取り上げ方もされました。

しかし、この2番目の点については、今回の提案は
もっと純粋な発想から来ているものと解釈すべきと思います。
というのは、今回の提案を聞いて、改めて大恐慌の後に
アメリカで前回の大恐慌の後にとられた金融規制の意味合いを
感じた人は少なくないと思いますが、これまでの規制改革論議では
初心(今回と比較される1930年代の大恐慌後に米国で
金融規制強化が行われた時の発想)に
立ち返った議論はあまりなされてこなかったからです。

つまり、大恐慌の経験から米国では金融機関に対する規制強化策が
とられたにも関らず、その後の時間の経過による意識の薄れ、
或いは、市場取引の経験蓄積に対する過信などを背景に、
利便性や収益性の追求を優先する形で徐々に規制緩和が行われてきた。
この規制緩和についての是非に対する総括が行われていなかったのですが、
その点で今回のボルカ―・ルールは一石を投じたものといえます。

提案者のポール・ボルカーは財務省出身で、
カーター・レーガン両大統領の政権時代に
FRBの議長を務めたのですが、当時深刻化していた
インフレの抑制に取り組んだことで有名です。
ここでは深入りしませんが、新金融調整方式と称して、
通貨供給量をコントロールすることでインフレの沈静化を図りましたが、
そのために金利が乱高下し、一時フェデラルファンド金利が
20%を超えることもあり、政権との軋轢も生じましたが、
方針を維持し、最後にはインフレを収束させたことで
評価されている人です。
歴代のFRB議長の中でも、清貧というイメージのある人
ですが、金融機関の異業種合併など、規制が徐々に緩和されていくのを
苦々しく思っていたと伝えられています。

今回の危機の背景には、本来企業と家計の経済活動に
奉仕するというサポート役である銀行が、規制緩和により、
経済の前面に立ち、自らの利益追求に奔走してしまったという
構造的な問題があったとも言われます。

米国経済の再生のためには、金融を
産業への資金供給という公共的使命に回帰
させなければならないが、そのためには
踏み込んだ規制が必要だ、今回の提案には
そうした意味合いが込められているのではないかと思います。

分野: 平松拓教授 |スピーカー:

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