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QT PROモーニングビジネススクール > 過去の記事一覧 > 組織の失敗 ~失敗からいかに学ぶか(2)(社会心理・組織心理/藤村 まこと)

組織の失敗 ~失敗からいかに学ぶか(2)(社会心理・組織心理/藤村 まこと)

10/01/11

前回は組織の失敗というお話をさせていただきましたが、
今回は事故分析についてお話したいと思います。


■医療事故の歴史

 アメリカの医学研究所と呼ばれるIOM(Institute of Medicine)が
1999年に発表したのですが、アメリカでは1997年1年間で
病院での医療事故による死亡者が、交通事故や
乳がんの死亡者よりも多い44,000人~98,000人
と推計されるという衝撃的なデータを発表しました。
そして、IOMは、医療事故によって生じた経済コストは、
約376-500億ドルとし、安全対策を行うことで約半分を節減できるとし、
いかに医療の質と安全を高めていくかという提言を行いました。
それは日本でも邦訳されていて、タイトルは“To err is human”,
“人は誰でも間違える―より安全な医療システムを目指して”となっています。

 この本が発表される頃まで、日本でもそれほど医療事故というものが
社会的に関心を集めていたかというとそうではありませんでした。
しかし、1999年1月の横浜で、それぞれ心臓と肺を手術する予定だった
患者ふたりを取り違えて手術するという出来事が起き、
その後あいついで医療事故の報道が新聞でなされ、
社会的関心を集めることになります。同じく2月には、食塩水を
点滴するつもりで消毒液を点滴してしまうという事故も起きています。
そのため、1999年は“医療事故元年”とも呼ばれており、
事故防止に向けたさまざまな取り組みが
このころから本格的に始まっていくことになります。


■事故をどう防ぐか ~事故分析

 そうして、医療事故に対する取組が全国的に活性化される中で、
産業界における事故の取り組みとしては、
大きくふたつの考え方があると思います。
ひとつは、これらの事故や失敗をいかに未然に防ぐかであり、
もうひとつは、人は間違えることを前提に、生じた事故や失敗に
いかに対処するか、いかに被害を小さくするかという考え方です。
今日は、前者の事故防止について、もう少しお話したいと思います。

 事故を防止するためには、まずは“失敗に学ぶ”ことが重要となります。
先に述べたヒヤリハットを含めたインシデントレポートも
まさにそのためのものです。その際には、誰が間違っているか、
誰が悪いのかを突き止めても何の解決にならないことは予想されますよね。
失敗から学ぶためのレポートでは、どのような状況で
失敗が生じたかを洗い出し、再発しないためには
どうすればよいかを考え実行することが肝心となります。
その際に利用される事故分析の考え方がいくつかあります。
これは日常的にも役立つことなので
そのうちのひとつ「SHELLモデル」を紹介したいと思います。

 「SHELLモデル」は、事故に関連する事柄の頭文字をとって
「S・H・E・L・L」となっています。
ここでの最後の「L」は“Liveware(人間)”のことを
指していて、失敗や事故の当事者のことです。
この当事者が、最適な状況で仕事をするためには、
「SHEL」の4つの要素が関連しているとしています。
ひとつめの「S」は“Software”で、マニュアルやルールは
使いやすいものか、読みやすいものか、
職場の慣習はどうであったか、など形のないものです。
ふたつめの「H」は“Hardware”で、機械や器具、
設備は整っているか、間違いにくいものかどうかです。
3つめの「E」は“Environment”、作業環境ですね。
労働条件や仕事の数、気候や気温などを含みます。
最後の4つめの「L」は“ Liveware”、人間ですが、
当事者以外の人たちです。医療であれば患者やその家族、
病院内の医師や薬剤師、看護師といった人たちですね。

 当事者の人が、失敗することなく最適な課題遂行をするには、
今述べた4つ、“ソフト”、“ハード”、“環境”、“人”との
良好な関係やコミュニケーションが必要です。
個人を責めるだけでなく、別の人がその状況におかれても
最適に仕事ができるように、それらの環境を改善することが
再発防止には重要と言われています。


■事故後対応の具体例

 具体的な事例としましては、某電器メーカーが、
暖房機器が事故を生じる可能性があるとして大々的に
CMや新聞、ホームページで回収の広告をしていますね。
人事の方にお話を聞いたところ、これはトップからの命令で、
最優先事項で全社あげての取り組みとして行われているそうです。
どの会社も、失敗はしたくないのですが、失敗してしまうことは
往々にしてあります。その時にどう対応するかということは、
被害の規模を最小限にとどめ、訴訟のリスクを減らすことに
つながりますし、組織の信頼性を維持、向上させるなど
ブランディングの働きもあります。
その意味でも、もし起きたらどうするか、起きた場合のことも
考えて対応策を準備することは、すでに医療や航空、安全を
重視する業界では行われていると思います。
欧米の方では、事故分析もそうですが、
既に事故後対応マニュアルもしっかり出来ています。

 最後にもう一点お伝えしておくと、最近の事故後対応の
取組として、「メディエーション」というものがあります。
これは病院内の事故分析などをしており医療安全対策室の
スタッフが行っている場合が多いのですが、医療者と患者さんとの
コミュニケーションをサポートする役割を担うものです。
訴訟は、医療者と患者やその家族との間での
コミュニケーションの齟齬や誤解から生じることが多いので、
この二者を向き合わせるというサポートです。
現在、そのメディエーションのスキルを持ったスタッフを育成していこう
という取組が行われています。
加えて、ADR(裁判外紛争解決)というものがあり、
2009年12月に初めて医療紛争を処理する医療ADRの機関が
認証されたそうです。これらの第三者介入という方法も、
今後医療の中に取り入れられていくのではないかと思います。


参考文献とウェブサイト
 コーン, L・コリガン, J・ドナルドソン、M 医学ジャーナリスト協会訳 (2001) 人は誰でも間違える―より安全な医療システムを目指して 日本評論社

医療コンフリクト・マネジメント研究会
 http://www.conflict-management.jp/index.htm

分野: 藤村まこと講師 |スピーカー:

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