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QT PROモーニングビジネススクール > 過去の記事一覧 > 組織の失敗 ~失敗からいかに学ぶか(社会心理・組織心理/藤村 まこと)

組織の失敗 ~失敗からいかに学ぶか(社会心理・組織心理/藤村 まこと)

10/01/06

先日,ヒューマンエラーといって、
人が関わる失敗のお話をしましたが、
最近の職場での仕事のようすをみると、
一人で行うよりも、複数の人と連携してチームで
行うことのほうが多いと思われます。

実際、医療、航空、原子力プラントといった安全に関わる領域でも、
チームでの取り組みが行われており、
医療の世界では「チーム医療」という言葉もあります。
考えてみれば、病院でも医者が診察し、
処方を出して、そこから看護師や薬剤師、
など様々な人が患者に関わることになります。

 仕事やチームで失敗が生じると、誰が間違ったんだ?という
いわゆる「WHO(だれが)」ということに目がいき、
その人に責任が負わされます。
しかし、同じ過ちを繰り返さないためには、「だれが」ということより、
「なぜ起きたのか(why)」とか「どうやって起きたのか(how)」
ということに注目することが必要になります。
原因と思われるものを見つけて、それを改善していきます。
これが原因追究というもので、主に改善策を
考えることを目的としたものとなります。

 しかし、前者の責任追及は改善策を見つけるためというよりは、
誰かを罰したりするために用いられると考えられます。
裁判では、訴訟された人に罪はあるのか、責任はあるのかを
判定するところなので、原因追究ではなく責任追及のプロセスに
偏りがちになるのは想像しやすいですね。

 一方、原因追究の場合は、人だけでなく、
その人を取り巻く環境にも原因を探していくプロセスであり、
原因がひとつである必要はありません。
医療や航空等の世界で、原因追究のための調査委員会が
行う仕事のひとつは、考えられる原因を
ひとつても多く発見することにあるといえます。
調査委員会では、あり得る原因というのを全て網羅的に挙げていきます。
可能性があるものは全てできるだけ改善することが、
再発を防止するために必要だと考えられているからです。


■ヒヤリハットの失敗

 また、実際の現場では、誰かがけがをしたり
死んだりするような重大事故でなくとも、
誰も傷ついてはいないけれど、ヒヤリとしたミスのことを、
「ヒヤリハット」とか「インシデント」と言って扱っています。
たとえば、日常の業務のなかで生じたインシデントを必ず、
部署の上司や組織内の担当部署に報告することが義務付けられています。
これをインシデントレポートとかセイフティレポートと呼んでおり、
組織内での失敗事例を共有して、同じ失敗を防ぐことが目的です。

 この背景としてよく言われるのは、
「1:29:300」という「ハインリッヒの法則」です。
労働災害の事例を分析した結果、アメリカで発見されたものなのですが、
重大災害を1とすれば、軽微の事故が29、そして無傷だけどヒヤリとした、
ハットした災害は300になるといわれています。
ここから「1件の重大事故が発生する背景には、
29件の軽傷な事故と300件のヒヤリハットがある。」といわれています。
つまり、ヒヤリハットを減らすことによって、重傷や死亡を伴う
重大事故の生じる確率を減らすと考えられるわけですね。

 しかし、この法則が発見されたのは1980年代に比べ、
現在はさらに科学技術やITが高度化しています。
それによって、たとえばボタンを押すという行為によって
生じる結果が依然に比べて大きな結果を招くことになり、
重大事故が生じる確率が高まっているのではないか、
また生じる重大事故の規模が大きくなっているのではないか
という懸念の声も聞かれます。


■最近での日本での取り組み

 ここで再度申し上げたいのは、「失敗からいかに学ぶか」ですね。
現在では、病院内だけでの失敗事例の共有ではなく、
全国的な共有が行われています。

日本では、2000年以後の医療事故の防止対策が活性化していき、
2004年から財団法人日本医療機能評価機構が出来ました。
そして、2004年から、財団法人日本医療機能評価機構に、
全国の医療機関から医療事故やヒヤリハットの事例を集め、
分析しその結果から得られた提言を発信するという取り組みを行っています。
現在その事例収集に協力している病院は全国に約700あるそうです。
そして、最近の一番新しい報告書では、今年度7-9月で
507件の報告があり、過去最高基準の報告数であると記されています。
これは悲観することではなく、
報告が定着化してきているという朗報と考えられます。
現在では、月に1回、国内の4900病院に
FAXでの情報提供もしているそうです。

いくつかの病院で、実際によく起きている失敗事例はweb上に報告されるので、
それによって防がれているミスや失敗があると思います。
また、分析結果に基づいて、薬剤の名称や形を
変えていくという取り組みもおこなわれています。


■チーム・エラーの視点

 また、高度化し複雑化している安全領域の現場は、
ひとりで仕事をするよりもむしろ、チームでの作業の方が多くなっています。
その中で、「Who(だれが)」ではなく、
「why(なぜ)」や「How(どうやって)」ということが注目されるなかで、
個人のエラーではなく、チーム特有のエラーに注目する動きもあります。
例えば、航空に関する問題も機長ひとりのエラーとはいえません。
管制官や副機長も整備士もいますので、そういったチームの中で
作業していくなかでは時間的にずれている人からの指令や、
空間的に離れている人の共同作業というのがあります。
例えば、バレーボールであれば、お見合いというエラー
(お互いに相手がすると思って真ん中にボールが落ちること)があるように、
チームワーク特有の失敗が生まれてくることがあると考えられますね。

イギリスの認知心理学者で航空事故等に詳しいジェームス・リースンと
日本の電力中央研究所にて、ヒューマンファクターの研究をしている
佐相邦英先生らが言っている言葉で「チーム・エラー」という言葉があります。
チームの中で生じたエラーは、チーム内の誰かによって、
未然に防ぐことができ、そのプロセスを、「検出」-「指摘」-「修正」としました。
つまり、誰かがおかした小さな失敗が、大きな事故につながるまえに、
チームの誰かが、「検出」して、それを「指摘」し、うまく「訂正」されれば、
事故にはつながらないと考えられます。
例えば医療であれば、ドクターの失敗は、およそ4割近くは薬剤師や、
看護師が見つけて修正してくれます。
しかし、患者さんに近い看護師であるほど、
看護師が犯した失敗は発見されにくく、
そのまま患者の被害に繋がりやすいといわれています。

なぜ小さな失敗が生じてしまったかという事故分析とともに、
一度生じた失敗をいかに小さいうちに消失させるかという視点、
そして、チームでの仕事を行う際には、
チームに起因する事故原因があるという視点は、
再発防止を考える上で重要だと思います。

<参考文献>
Sasou, K., & Reason, J. 1999 Team errors: Definition and taxonomy. Reliability Engineering and System Safety, 65, 1-9.
佐相邦英 1997 チームエラー : その分類と事例分析 電気学会研究会資料(原子力研究会)pp.7-12.
山内桂子・山内隆久 2000 医療事故―なぜ起こるのか、どうすれば防げるのか 朝日新聞社

分野: 藤村まこと講師 |スピーカー:

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