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QT PROモーニングビジネススクール > 過去の記事一覧 > スコットランドの産学連携プロジェクト(産学連携マネジメント/高田 仁)

スコットランドの産学連携プロジェクト(産学連携マネジメント/高田 仁)

08/11/26

■産学連携の難しさ

産学連携プロジェクトにおいて適切なテーマを設定することは、
大学と企業双方の利害を一致させて目標を設定し、
適正な役割分担構造を設計するうえで極めて重要です。

そもそも、真理の探究を目指す大学と営利を追求する企業とでは
ミッションや行動原理が大きく異なるため、
産学双方の利害が一致するところにテーマを設定できるか否かは、
プロジェクトの成否に大きな影響を持ちます。

また、適切なテーマが設定できたとしても、
研究遂行にあたっての管理が適切になされなければ、
双方にとって意義ある成果を生み出すことは難しいのです。

今回は、スコットランドの大型産学連携プロジェクトである
TMRC(Translational Medicine Research Collaboration)のケースを紹介し、
このプロジェクトでのテーマ設定と管理の特徴について話をしたいと思います。


■TMRC

TMRCは、臨床と科学において世界をリードする
卓越したネットワークの形成を目的として、
2006年にスタートしました。
スコットランドの4大学(グラスゴー、エジンバラ、
ダンディー、アバディーンの各大学)、
NHS(National Health Service)に属する4研究機関、
スコットランドの経済開発公社であるスコティッシュ・エンタープライズ、
それにグローバル製薬企業のワイスが共同で取り組むプロジェクトです。

当初5年間の予算として、スコティッシュ・エンタープライズが1,700万ポンド、
ワイスが3,300万ポンドを拠出する大型プロジェクトであり、
具体的には医薬開発や疾患の診断に有効なバイオマーカーの探索研究を、
循環器および代謝系疾患、ガン、神経疾患、炎症性疾患、女性疾患、
の5つの領域で行っています。


■バイオマーカーのプロジェクト

医療の領域で、医薬、医薬品の開発のために必要な、
バイオマーカーというものがあります。
薬の副作用があるかないか、
あるいは薬が効いているとか効いてない
という判断をする根拠になります。

そのバイオマーカーを研究する大きなプロジェクトで、
スコットランドでは、5年間で100億円を投入して行っています。
製薬企業が約6割のお金を出し、
残りを、スコットランド政府が出しています。
大学と企業だけではなく、なぜ政府が関わるかといいますと、
地域の産業振興に結びつくからです。
スコットランドは、イギリスの中の12%から15%程度の
バイオ系の研究者がいたり、あるいは企業が集積をしていたり、
という力を持っています。
そのような分野を強めたいとスコットランド政府が考え、
巨額の資金を投入しています。

このプロジェクトは、2006年にスタートし、
既に、67プロジェクト(67個のバイオマーカー)を完了させました。
1件当たりのプロジェクトの金額が、
日本円で言いますと、600万円~800万円位のプログラムを、
もう67個も終了しています。

私は、大学が行いたい事と企業が目的とするものを、
上手く合致させるようなプログラムのテーマをどう選び、
プロジェクトを進めたかに興味を持ちました。


■研究プログラムの選定方法

最初に、製薬企業が地域の大学の研究者に対して、
研究発表会とワークショップへの参加の呼びかけをします。
そのようにして、最初のステップである出会いの場を作ります。
最初に集まった、30人~40人の研究者が発表をすることで、
ある研究者と別な研究者が共同で研究できる可能性が次第に分かってきます。

それをベースに、第2ステップとして、
大学の研究者と製薬企業の人が一緒になって、研究計画書を作ります。
こうすることで、大学の先生だけが行いたいことだけの計画ではなく、
当初の計画段階から企業のニーズが織り込まれた
研究計画書ができるメリットがあります。

第3ステップで、提案された研究計画書は、
TMRCのSRB(Scientific Review Board)によって、
客観的な評価を受け、
そこで採択されたプログラムにお金を配分するという仕組みになっています。

以上のプロセスを経て、各研究プログラムのテーマが設定されますが、
重要なポイントは、大学研究者の自由な発想と
ワイスの医薬開発上のニーズを整合させる仕組みが
このプロセスに内包されていることです。


■研究プロジェクトのタイプ

現地の人が言うには、産学連携プロジェクトには
3つのプロジェクトのタイプがあります。
1つはグラントで、政府がお金を出すような仕組みのものです。
研究者の非常に自由な発想に任せさられているプロジェクトで、
学会発表するのも、研究者が自由に決めていい
というようなものです。

第2のパターンとして、コントラクトがあります。
これは、企業から明確に研究の方法が定められているものであり、
大学の先生の自由な発想が出てこなくなるという問題があります。

第3のパターンは、今回お話ししたような
コラボレーションタイプです。
当初の研究計画書を作る段階から、
大学と企業が一緒にアイデアを出し、
双方が折り合うところはどこかということを
事前にしっかり確認をした上で始めて研究を進めることが、
コラボレーションにとって一番重要なポイントです。


■トランスレーショナルサイエンティスト

このプロジェクトがスムーズに進捗する最大のポイントは、
研究者の自由な発想を尊重しつつも、
ワイスが得られた成果を医薬開発プロセスで利用できるようにするために、
研究計画書の作成段階で
同社の専門家(Translational Scientist)が
計画書の内容のチェックやプロトコル/データ解析方法の
提案を行っていることです。

このTranslational Scientistは、
5つの疾患領域毎に配置されており、
大学研究者に対して研究計画書の作成のみならず、
研究プログラムの遂行にあたって必要となる種々のサポートを提供しています。

つまり、Translational Scientistを通じて、
大学研究者はTranslational Medicineに関する新たな知識を獲得することが出来、
一方ワイスは大学における優れた基礎研究へのアクセスが担保されるため、
双方にwin-winの関係が構築されています。

日本や九州大学でも、コラボレーションは行われています。
しかし、5年で100億円を使うような大型プロジェクトで、
ここまで効率よくできているものは、なかなかありません。

また、プロジェクトが始まった後のマネジメントも、
非常にうまく行われているところが、
スコットランドのプロジェクトのもう1つの特徴です。
これについては、次回にお話ししましょう。

分野: 高田仁准教授 |スピーカー:

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