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QT PROモーニングビジネススクール > 過去の記事一覧 > 閑話休題 ~ シリコンバレー2008①(ベンチャー企業/五十嵐 伸吾)

閑話休題 ~ シリコンバレー2008①(ベンチャー企業/五十嵐 伸吾)

08/09/17

前回までの数回は「組織論」についてお話をしてきました。
しかし、この夏にシリコンバレーを訪問しましたので、
ライブ感があるうちと考え、こちらをお話します。
(去年の夏も、お話しましたね)


■今年のシリコンバレー
8月にシリコンバレーを訪ね15社を調査してきました。
ベンチャー企業とベンチャーに投資するベンチャーキャピタル(以下VC)の
主に2種類を見てきました。
この調査を始めたのは5年ほど前で、
同じ起業家を数年おきに訪ね、その起業家が
どのようなキャリアを辿っているかを定点観測しています。
今年も、久し振りにお話をお聞きした起業家もいます。
今回は、そのお話をします。

日本ではベンチャーを取り巻く状況は大変ですが、
アメリカも去年から同様で、
今年はさらに状況は悪化しているようです。
日本では「株式公開が難しくなった」という話を
BBIQでも致しました。
それでは、アメリカの状況は?
実は、NASDSAQでは、今年の第3四半期まで
1社もIPO(初回株式公募)を果たした企業が
ありません。
このように株式公開から見ると
日本もアメリカも同様で上手く機能していないと言えます。
ところが、VCの投資状況を見てみると、
日本では急速に投資熱は減退していますが、
アメリカのVCは引き続き投資を継続しています。
つまり、VCからお金は出ています。
後半でお話しますが、どちらかというと、
VCの出口はIPO(≒株式公開)というより、
M&A、つまり会社売却をするといったことが、
主流になってきています。
出口を確保することでVCはベンチャーに投資できるようになっています。


■ベンチャーのM&Aについて
ご本人の名前は伏せますが、2004年に会った
イラン系のアメリカ人の話をしたいと思います。
彼が最初に会社を設立した際に、
いくつかのVCから投資を受けました。
設立後5年を経て、ようやく急成長のアクセルを
踏もうとした矢先に、ベンチャーキャピタリストから、
「今の企業価値が一番高い。だから、会社を売ってしまった方が良い」、
と言われたそうです。
その方ともう一人の創業者で立ち上げた会社で、
会社の成長を信じて起業しました。
これから会社が本格的な成長を遂げる直前の今、
なぜ会社を売却しなければならないのか
非常に不満に思ったそうです。
しかし、資本の力に負け、売らざるを得なかったそうです。

2004年に私がインタビューした時には、彼は、
この煮え湯を飲まされた経験をもとに、新しい会社を立ち上げ、
二度とVCからの投資は受けない、と心に決め、
再度、企業成長に普請している時でした。
彼は非常に頑張り、地道な努力が奏功し
業界2位の地位まで会社を成長させました。
ライバルは大きな会社だけとなっていました。
この夏、4年ぶりにお会いしたら、
会社を14年かけて大きくしてきたのだが、
一昨年、会社を売却したと話してくれました。


■売却後の暮ら
彼は、本当に着実に会社を大きくしてきました。
今回、彼とコンタクトを取ろうとして、
何回も何回もメールをしましたが、返信がありません。
「今、マレーシアにいる」。「今はブラジル」という調子で、
なかなかコンタクトが取れませんでした。
シリコンバレーに行く数日前にやっとコンタクトできたのですが、
「それでは、オフィスを訪問します」と伝えると、
「いいえ、私が、君達のホテルに行きます」との返事で、
来ていただきました。
話によれば、彼は2006年に会社を売却して、
売却先のバイスプレジデント(Vice President)という地位もらっていました。
「相変わらず、世界中を飛び回って、ご多忙ですね」と尋ねたところ、
「それはね、長年、一生懸命働いて来たから、
骨休めに世界中を旅歩いているんだ。休暇だよ」と話してくれました。
「仕事ではなかったのですか?」と重ねて尋ねたところ、
「いや、僕も50歳になり、今までシリコンバレーでストレスフルな人生
送って来たから、もう(引退しても)いいかなと思って」、との返事でした。
売却先の大企業に一応席はあるが、
もう完全にリタイアして悠々自適な生活を送っているそうで、
自分も馴染みの薄い会社よりはホテルの方が気楽ということで、
訪ねてくれたそうです。
別れ際ホテルの駐車場まで見送って行ったところ、
ポルシェのオープンカーに乗って来ていました。

<イラン系起業家S氏 共同研究者と>
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■日米で異なるM&Aのイメージ
一緒に同席した日本の起業家がいたのですが、
彼も会社を売却したそうです。
相手はヤフーだったそうですが、
日本人の友人にそれを告げたところ、
「お前せっかく頑張ってきたのに、売却するのか」、
言外の残念だったねという表情が見て取れたそうです。
これが、サラリーマンを中心とする一般的な日本人の感じ方なのだと思います。

ところがシリコンバレーでは、彼が会社を売却したら、
即座に「congratulation(コングラチュレーション)」
つまり、良かったね。おめでとうと言っていました。
これがシリコンバレーでは普通の感覚なのです。。

本人がこの会社をどうしたいかということが大切ですね。
一方で、会社は会社、グローイングコンサーン(永遠の続くもの)
として別途に考え、会社のためにどうすべきかを考えているのです。
これ以上自分が経営を行うより、誰かに任せた方が
技術も従業員もハッピーになると考えれば、
普通に売却してしまうようです。
むしろ会社を金儲けの道具と考えるより、
会社の成長ステージと起業家(あるいは創業者)の
役割という意識で考えてみたら良いと思います。
会社や技術の発展や従業員の幸福を考えれば、
自分が経営の一線から退き、バトンタッチするという選択肢があります。
常に、それを念頭においておく必要があるでしょう。

日本では、残念ながら、
ここまで達観するには至っていないようです。
日本のベンチャー事情においては、
投資しているベンチャーキャピタルでさえ、
社長が会社を売ることになると
(むしろ銀行の方が強く主張するかもしれませんが)、
「お前は経営を投げ出して逃げるのか」というような話を
言ってくるかも知れません。
しかし、それは、本人にとっても会社や事業の観点でも、
経営を継続することが最善の選択ではないかもしれませんね。
起業家もステークホルダーも冷静に考えられるようになれば、
日本のベンチャーシーンも少しは違ったものとなるはずですね。

分野: 五十嵐伸吾准教授 |スピーカー:

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