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QT PROモーニングビジネススクール > 過去の記事一覧 > 日本の電機産業の再編(国際ビジネス論/永池)

日本の電機産業の再編(国際ビジネス論/永池)

08/04/08

■1980年代の「ジャパンアズナンバーワン」
1980年代にエズラ・ヴォーゲル(ハーバード大学教授)が「ジャパン・
アズ・ナンバーワン」という有名な本を書きましたが、その当時、日本の
代表的な産業というのが、電機産業と自動車産業と精密機械でした。
特に電機産業は、戦後間もない頃から欧米企業から導入した技術を、
たちまち自分のものにして成長し、80年代になると世界でナンバーワン
になった時代がありました。
今日は、その電機産業をとりあげます。
電機産業は80年代世界の頂点に上り詰めた後、一転して90年代以降
10年以上も低迷し、収益悪化に苦しみ、様々な経営改革を繰り返してきました。
そして、ここにきてようやく「守りの経営」から「攻めの経営」に転じつつあります。
しかし、その過程で企業間の格差が拡大し、勝ち組、負け組企業が顕在化する
とともに、各企業が自社の強いところに資源を集中し、弱いところは
棄てるという「選択と集中」戦略を徹底して業界全体としての大きな業界
再編成が進んでいます。


それではなぜ電機産業は90年代以降、低迷したのでしょうか。
その原因として、企業環境の悪化がありました。米国に端を発する世界のIT不況と
景気後退、円高や通商摩擦の激化など企業環境悪化によるものがあります。また、
90年代以降の企業環境変化や新しいビジネスモデルの勃興とそのスピードに日本企業が
遅れをとったということもあります。日本の伝統的な経営手法の問題点もありました。
こうした様々な問題が顕在化し、日本企業はこれまで10年以上にわたってもがいてきました。


■同業他社同士の横並び競争と経営の多角化による問題
伸び悩みのおもな原因の一つは、高度経済成長期にたくさんの企業が国内にひしめいていて、
皆がどんどん事業を多角化していったことです。「よそがやるのだったら、うちもやる」
ということで、各企業が手を広げ、その結果、多くの電機メーカーが総合電機化して
いきました。
ところが、90年代に入ると本格的なグローバリゼーションとITネットワーク技術が
発達し、デジタライゼーションが大きなトレンドとして世界中を覆ってきました。
当時、日本企業は80年代にトップに躍り出たという自信とおごりがあって、グローバリ
ゼーションやITネットワークといった大きなビジネスモデルの変革の波に乗り遅れて
しまったというのが一番大きな原因だと思います。
世界の市場がグローバル化していくと、世界が一つのマーケットになります。そこに、
世界中の力のある企業が集まり、競争を繰り広げるようになりました。そうしたオリンピック
のような市場で力をつけてきたのは一つの事業分野に経営資源を投入できる専業メーカー
でした。アメリカでは、世界的に非常に強い専業メーカーがどんどん出てきました。
例えば半導体でいえばインテル、パソコンではコンパック、DELLコンピューターや
ヒューレッドパッカードなどです。
彼らの場合は、限られた事業分野だけしかやっていないので、100%経営資源をそこに投入できます。
また、経営の意思決定が速くできるので、小回りもききます。
ところが、日本メーカーは、幅広い事業分野に多角化していたので、
経営資源が分散化されてしまいました。
家庭電器にも、充電器にも、半導体にも、それから情報通信にもお金を
出さなくてはなりません。皆それぞれ少しずつ少しずつ分散しなければ
いけないので、それぞれの事業分野の競争力は中途半端となってしまい
ました。また、意思決定が遅くならざるを得ず、経営のスピードで欧米の
専業メーカーに遅れを取るようになりました。
こうして、世界のマーケットがどんどん専業メーカーに個別制覇されるように
なっていきました。


■専業・特化の時代
電機業界は、あれもこれもという時代から、何かに特化するというように今動いています。
その変化の中で、日本のメーカーもある分野から手を引くとういう話が増えてきています。
例えばごく最近ですが、液晶事業分野では多くの企業が参入していましたが市場の競争が
激しくなり、下位メーカーは息のころが難しくなりました。そこで、シャープと松下の2社が
中心になって、他のメーカーは自分で作るのをやめ、アウトソーシングする(商品供給を受ける)
というようになっています。
また、半導体事業では東芝に一極集中になってきているということで、これも1,2社に収斂
されつつあります。最近では、次世代DVD分野では、これまでブルーレイディスク陣営と
HD-DVDの二つの陣営が真二つに分かれて世界の業界標準(デファクト・スタンダード)を
争っていましたが、HD-DVD陣営が撤退を決めました。撤退するというとマイナスの
イメージがありますが、必ずしもそうではありません。
東芝はHD-DVD陣営の盟主だったのですが、これまで東芝陣営についていた米国ワーナー
ブラザーズという映画会社が急にブルーレイディスク陣営に鞍替えを表明した途端に撤退を決めました。
そして、撤退を決めたということで、日本のマスコミでは東芝に対してややネガティブな報道がなされたのですが、その直後東芝の株価は逆に上がったのです。
これはなぜかというと、東芝はそこで上手く決断して、撤退を決めると同時に得意分野である半導体に
1兆4千億円という巨額の投資をすることを発表したからです。これによって経営資源を分散させず、
強い分野に集中することを株式市場の関係者が高く評価したのです。
今、投資家、特に外国の機関投資家というのは、日本企業が、いつ専業、強い所に特化していくかというのを待っているのです。
今時価総額で勝ち組になっているのが、松下と東芝とシャープの3社です。
他は数年前に比べて、時価総額が下がってしまっています。
日本の電機メーカーは事業の選択と集中という面でこのように、かなり明暗が
はっきりしてきていることも事実だと思います。


■今後の電機業界
これまで、米国のGE(General Electric Co.)は世界で1位、2位でない
事業は全部売却してきました。その結果、高い収益を誇る企業になりました。
電機製品というのは、基本的には世界で1位から3位に入らないと
生きていけません。つまり十分な利益を上げることはできません。
ですから、自分が手がけている事業分野を強い分野と弱い分野にわけ、弱い分野にいつまでも
未練を残さずどんどん取捨選択して行くことが求められているのです。
こうして、日本企業のうち、強い分野に特化した企業が数社できる、
あるいは10社あったのが5社残るというような形で、これから集約化(コンバージェンス)されて
いくだろうと思います。
それは例えば国際競争の中で、あたかもオリンピックで勝つように、
短距離は短距離、マラソンはマラソン、中距離は中距離と特化しないと、
1人の選手が全部の種目でメダルをとるというのは不可能です。
だからそういう意味ではこれから厳しい企業間の淘汰の局面、ないしは再編が
続くと予想されます。それは厳しい試練ではありますが、日本の電機産業の再生、
復活にとっては、非常にいい方向に進んでいると言えます。
日本の電機メーカーは技術やモノづくりの水準、人材の面では、今も世界のトップ
にあります。あとはあれもこれもやるのではなく、幾つかの自社の強みを発揮できる
分野にヒト、モノ、カネ、情報、ノウハウといった経営資源を集中していけば
世界市場で十分競争できます。
これがうまく進めば、1980年代に日本の電機産業が世界の頂点に立ったようなことが
再び実現する日も遠くないと思います。

分野: 永池克明教授 |スピーカー:

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