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QT PROモーニングビジネススクール > 過去の記事一覧 > 化学産業について(イノベーション/永田)

化学産業について(イノベーション/永田)

08/02/26

前回は、国際的な競争優位を有する
日本の産業の事例として
自動車産業を取り上げ、
その製品開発力の源泉について、
これまで明らかにされてきたことを
整理しました。
今回は、逆に競争劣位にあると
みられてきた産業を取り上げ、
その製品開発戦略における
課題について考えます。
事例として、
化学産業を取り上げます。


■様々な化学製品
ただ一口に化学産業といっても、
その製品分野は、
化学肥料・無機化学工業製品、
有機化学工業製品、
化学繊維、油脂加工製品、
石鹸・合成洗剤、界面活性剤、
塗料、医薬品、
プラスチック製品、ゴム製品と
非常に多岐に亘っています。


■国際競争力の低い化学産業
これらを併せた化学産業は、
日本の製造業全体の中で
重要な位置を占めています。
その製品出荷額は
製造業全体の13%前後を占めており、
その生産額を
国際比較の観点からみると、
米国に次いで
世界第二位の規模となっています。
しかし、化学産業の輸出比率は、
電気機械や、
前回取り上げた自動車産業を含む
輸送用機械などに比して著しく低く、
また米国やドイツの水準を
大きく下回っていることから、
国際競争力は高くないと
みられてきました。


■今日的課題に直面している化学産業
一方、化学産業は、
その名称が特定の製品ではなく
学問領域を意味しているという
特徴を持ち、
その点に科学研究の重要性が
表されている産業ですが、
学術論文に関する指標からみる限り、
日本の化学分野における研究水準は
相対的に高いことが知られています。
言い換えれば、日本の化学産業は、
国内における研究活動が
産業部門の国際競争力に
効果的に結びつかないという問題に
直面している
典型的な産業の一つであると
いうことができます。
日本の化学産業は、
高い技術力を持ちながらも
国際市場で成功した経験に
乏しいとみられてきたことから、
自動車産業などに比べると
注目されることも少なかったのです。
しかし、技術的知識からの価値創造という
今日的課題に直面しているという意味では、
むしろ注目すべき産業です。


■日本の化学産業が競争劣位である理由
では何故、日本の化学産業は
競争劣位にあるのでしょうか。
この点について
伊丹敬之(ひろゆき)教授は、
『日本の化学産業
—なぜ世界に立ち遅れたのか』
(1991年)という著書の中で、
興味深い分析を行っています。
それによると、
国際的な立ち遅れの原因としては、
もともと初期条件としての
技術蓄積が乏しかったこと、
戦後、石炭化学から
石油化学への転換などの
大きな構造変動を経たこと、
そのような転換に乏しい技術蓄積で
対応することは
大きな負担となったため、
多くの企業が集まって
コンビナートを形成するという
リスク分散が図られ、
規模の大きくない企業が
多数存在する産業構造が
形成されたこと、が
挙げられています。
また、伊丹教授は、
化学産業には
日本産業の成功パターンとの間に
乖離があるとして、
技術蓄積が
生産活動から生み出されるのではなく、
研究室で行われる割合が高いこと、
特定の製品を焦点とし、
チームとしての努力を集中して
競争に勝つというパターンが
効果を発揮しにくい
(焦点を決める戦略の重要性が高い)こと、
などを挙げています。
この成功パターンとの乖離については、
前回取り上げた
自動車産業と比較することによって
確認できるでしょう。


■規模の小さい日本企業
ここで立ち遅れの原因として
指摘された事項のうち、
特に日本企業の規模が
小さいという点に注目してみます。
以前お話したように、
企業規模が大きいほど
イノベーションを実現する上で
有利であるとする考え方は、
シュンペーター以来の
伝統的な仮説です。
日本の化学産業について
規模の問題を指摘した文献は
他にもあり、事業規模を
欧米の化学メーカーと
比肩できる程度に拡大することが、
日本のメーカーの
課題とされてきました。
実際、近年では
三井化学と出光興産の間で
ポリオレフィン事業の
統合が行われるなど、
事業規模の拡大を一つの目的とした
業界再編の動きもみられます。
分散していた研究開発機能を
一箇所に集中させるという
取り組みの事例もみられます。

■企業規模とイノベーションの関係
私は4年ほど前から進めてきた
ある共同研究プロジェクトの中で、
この点に関する検証を
試みたことがあります。
先程述べたように、化学産業には
多くの製品分野が含まれるので、
そこでは石油化学を主力事業とする
企業を対象とした調査を行いました。
約70社から得られたデータを
用いて分析を行った結果、
次のようなことが分かりました。


企業全体の規模や
研究所・研究開発部門の
規模の大きさは、
イノベーションの
決定要因の一つである
技術機会の獲得において
確かに有利に作用しています。
特に、相対的に規模の大きい企業ほど、
共同研究を通じて
大学から積極的に
技術機会を獲得しています。
ただ、それは規模自体の
影響というよりも、
それらの企業では基礎研究段階から
研究開発を行っているため、
大学と共同研究を行いやすい
ということに由来しています。


一方で規模の大きさが
ネガティブに作用する側面も
見出されています。
すなわち、
相対的に規模の大きい研究所ほど、
部門を超えた研究者間の
コミュニケーションが阻害される
傾向があるという側面です。
したがって、
日本の石油化学メーカーが、
研究開発機能のセンター化などにより
規模の拡大を追求していく場合には、
同時に部門間のコラボレーションを
妨げないような戦略的な
機能配置を図る必要があります。

分野: 永田晃也教授 |スピーカー:

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